あの人に会いたい 福田成徳さん(70)=広島市西区
(6月28日)
RX500のカーデザイナー時代の願いを車に体現
黒い布がするりと落ち、銀色に輝く車体が現れた。広島市交通科学館(安佐南区)の多目的ホール。世界に1台しかない幻の名車「マツダ RX500」が修復を終えて、26日に約30年ぶりに雄姿を現した。
空気を切り裂くような鼻先、なめらかなボディーライン。斜め前方に跳ね上げる「ガルウイングドア」はイタリアのスーパーカー、ランボルギーニ・カウンタックより早い。
「低い車高の乗降性を確保するには、このドアにするしかなかった。技術的には苦労したけどね」。かつてデザインした「わが子」をそっとなでた。
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東洋工業(現マツダ)がロータリーエンジン(RE)の実用化にこぎ着けたのは1967年。REの先進性と「メード・イン・ヒロシマ」の技術力を世界に発信するコンセプトカーRX500の開発は翌年にスタート。
「飛行機のように速く、かっこよく」。そう念じながら、壁に張った方眼紙にペンを振るい続けたという。
RX500は1970年の東京モーターショーに登場し、欧米のスーパーカーと人気を競った。その後、国内外のディーラーなどで展示されたが、70年代後半からは、マツダの倉庫で眠りについた。「ほこりをかぶっている姿を時々見かけ、いつかよみがえらせたいと思っていた」
デザイナーとして「寂しい時期」もあった。73年の石油ショックで、マツダの経営は悪化。開発費がかかるわりに、数が売れないスポーツカーは後回しになった。経費削減のため休日出勤が禁止された。「山陰地方などへよくドライブに行ったなあ」
そこで気付いた。「車はスピードなどの性能を追求するためだけのものではなく、生活の中で乗って楽しむものだと思うようになった」。83年に北米マツダに出向。ロサンゼルスの突き抜ける青空の下、オープンカーで走る快感を覚えた。
不況時代と米国生活の経験が合わさって生まれたアイデアが、小型のオープンカー「ロードスター」だった。
「渋滞が多い日本で売れるわけがない」。社内は否定的な意見が大半を占めていた。先行開発の責任者として、市場調査を重ね、本社の幹部を説得した。
いまも乗り続けている愛車「ググ」は、自らデザインした初代ロードスターだ。走行距離27万キロだが、「50万キロまでは走る」と決めている。
社内では「ミスターグリーン」と呼ばれたほどの緑色好き。当然、ググもそうだ。RX500も当初は緑色に決めていたが、社内の意見で結局は黄色にさせられ、後に銀色に塗り替えられた。
グローブを着け、黄金山(南区)のワインディングロードを上る。アクセルと変速機だけで、一定のスピードを維持する。ブレーキも速度計もほとんど必要なさそうだ。
「こいつとは長い付き合いだからね。エンジン音と地形だけで速度が分かるんだ」。涼しい顔で次のコーナーに飛び込んだ。
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市交通科学館がRX500の修復を始めたのは4月。7月19日から8月31日まで開く「まぼろしのスーパーカー展」(中国新聞社など主催)の「主役」だ。
修復を請け負った西区の工場には数回、訪れた。傷みが目立ったドアでは、当時のねじやヒンジの場所や数を助言した。「50種の車のデザインに携わったが、これは特別な1台。より往時の姿に近づけたい」と思った。
当時の設計図は残っていない。実車と併せて展示しようと、後進のデザイナーを指導する仕事の合間を縫って設計図を書き直した。
かつてスーパーカーは路上でも、モーターショーでも華だった。いまはハイブリッドカーなど環境に優しい車にその座を譲った。
「速く、強くを求めてきた自分たちの時代はそろそろ終わりなのかなあ」と傍らのRX500を見やる。でも落胆はしていない。「車はその時代に生きる人たちの願いを表す道具。次はどんな車が現れるのか」。楽しみは膨らむ。(田沼規充)
ふくだ・しげのり 1938年、長崎県佐世保市生まれ。ファミリアバンをスタートに、サバンナやコスモなどのデザインを手掛けた。なかでもカペラは82年、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。現在、マツダの関連企業のマツダE&T(南区)で顧問兼デザイン試作部長兼マネージャーを務める。テニス、パラグライダー、温泉巡りと趣味は広いが、「一番の趣味はドライブ」。
知人のひと言
会社員 佐竹克行さん
お酒より車 尽きぬ話題
1990年10月に山梨県であった全国のロードスターオーナーの集まりからのお付き合い。私が会長を務めるオーナークラブの名誉会員で、年数回のツーリングを一緒に楽しんでいます。
ロードスターの「生みの親」の福田さんは今も昔もあこがれの存在。車の話をすると止まらない、気さくな性格で打ち解けるのに時間はかかりませんでした。私たちは、クラブの仲間たちで温泉に行く時は、心おきなく酒を飲むためバス旅行にします。でも、福田さんはお酒より車。たいてい愛車で後ろから追い掛けてきます。
イベントの景品ののれんやクッションに、ロードスターを自ら描いてくださったこともありました。車の楽しみ方を教えてもらえるのでいつも会うのが楽しみです。
【写真説明】「空気抵抗を受けにくい造形に専念した」と、最も気に入っているボンネットをさする(撮影・今田豊)
【写真説明】ガルウイングドアが目を引くRX500。70年代の「近未来」をありったけ詰め込んだ
【写真説明】RX500の設計図を書き直す。「コンピューターでは引けない細かい曲線が手書きの持ち味」
