広島に演劇旋風
劇団四季「オペラ座の怪人」回顧


 劇団四季が広島市中区の郵便貯金ホールで約二カ月間上演したミ ュージカル「オペラ座の怪人」(広島市、中国新聞社など主催)は 八日、目標の観客動員十万人を達成して盛況のうちに閉幕した。中 四国地方では初のロングラン公演が地域にもたらした成果や、浮か び上がった課題を検証した。

(道面雅量)

最後のカーテンコールで舞台に勢ぞろいした出演者

10万人動員  ―知名度をフルに活用

 総立ちの観客の拍手にこたえ、繰り返されるカーテンコール。八 日夜の千秋楽の舞台は、公演が地域に与えたインパクトの大きさを 象徴するような熱気に包まれた。

千秋楽公演で入り口に列をつくる観客。総入場者は10万人を超えた(8日)

 三度目の観劇という広島市安佐北区、高校二年児玉京花さん(16) は「歌が素晴らしく、何度でも見たくなる。毎年やってほしい」。 十一回も見た中区の飲食業桑原由貴さん(41)は「話題に乗り遅れな いようにと一度見たら、夢中になってしまった」と話す。

 八月十一日に開幕し、計六十九回上演。総入場者は十万三千五百 二十一人で、総客席数に対する割合(入場率)は90%。おおむね満 席に近い入りを維持した。

 十万を超える観客動員について、演劇の誘致・鑑賞活動をしてい る広島市民劇場の亀岡恭二事務局長は「これまで観劇の習慣のなか った人まで呼び寄せたからこそ、可能な数字」とみる。四季は知名 度のある大型演目を思い切って投入し、広島周辺の観客層の掘り起 こしに成功した。

 四季の推計によると、全入場者のうち広島県内は64%、同県を除 く中四国地方は16%。九州、近畿、関東からも4―5%が来場し た。広域的な集客は交通機関などに経済効果をもたらした。

 四季ファンの岡山県里庄町、主婦三宅香代子さん(42)は「(専用 劇場のある)大阪や名古屋に出掛けることを思えば、ずっと経済 的」と、千秋楽も含めて五回観劇。広島の都市としての求引力も高 めたといえる。

地元の反応  ―「見せる」情熱 刺激に

 地元の演劇関係者は公演をどう受け止めただろうか。広島市でア マチュア劇団を三十年近く率いる演出家の光藤博明さん(51)は「四 季の最近作はドラマより舞台装置で目を引く感があり、共感しにく い」と断った上で、「俳優や裏方のレベルの高さはさすが。演劇を 学ぶ者が見れば、必ずためになる」と評価。

 「アマチュアは『やりたくてやっていることだから』と、客が入 らなくても甘えてしまうところがある。『見てもらえる演劇』のた めに情熱を注ぐ四季の姿は刺激になった」と、自身が演出する十一 月の公演に向けて気持ちを新たにしている。

 今回の公演ではロングランの利点を生かし、中学や高校、大学、 専門学校の団体観劇も計十四校の七千人余りに上った。

 「これから演劇界を志す可能性のある世代に種をまいてくれた」 と、広島県高校演劇協議会の顧問伊藤隆弘さん(63)は言う。公演期 間中、四季の俳優を講師に招き、演劇部の生徒に発声法などを教え るセミナーを広島市内で開いた。「二十五校から三百人近くも参加 し、貴重な学びの機会になった」と喜ぶ。

課題を探る  ―定演できる施設必要

 課題としては、公共の多目的ホールを使うことに伴う制約が挙げ られる。今回、四季は「シアター・イン・シアター」と呼ばれる新 方式の舞台によって郵便貯金ホールでの公演を実現したが、公共施 設の性格上、一民間劇団に貸し出す期間には限界がある。

 四季で地方公演を担当する佐々木典夫取締役は「リピーター(再 度観劇する人)の波が高まったところで千秋楽を迎えてしまい、余 力を残した」と話す。また、扇状に大きく広がった客席構造はコン サート向きで、演劇には適さないという観客の声もあった。

 これらの点に関し、四季の浅利慶太代表は「広島にいきなり専用 劇場を作るのは無理」とした上で、「幾つかの都市が連携し、規格 を統一した『娯楽館』を各地に作れないか。機材搬入も容易にな り、四季や他のエンターテイナーの定期的な巡演が可能になる」と 提言する。

 さまざまな催しに対応する公共施設として多目的ホールが各地に 増えたが、ソフトの個性に応じた使い分けができず、「無目的」ホ ールとやゆされることもある。ソフトから逆算して使いやすいハー ドを整備する必要性を、今回の公演は示したといえそうだ。

 上演中に舞台を無断撮影したり、客席で飲食したりと、基本的な マナーに違反する観客も見られた。観客も演劇文化の成熟を担う主 体であることを自覚したい。

(2001.10.14)