人の皮膚から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作るのに成功し、世界的に注目を集める京都大iPS細胞研究センター長の山中伸弥教授。24日、広島市中区の広島国際会議場で講演した。テーマは「iPS細胞がつくる新しい医学」。最先端の研究への道のりと未来に期待される役割を語った。
▽再生医療の可能性広がる
一九九〇年代は移植医学の発展期。しかし、脳死患者や患者の家族からの臓器提供にとどまる。ドナー不足と、拒絶反応や提供者の負担といったリスクは否めないのが現実だ。
そこで私たちが目指したのは再生医学だ。臓器や細胞を作り出し、増やし、患者に移植する―。これまでの移植医学と一線を画すもの。切り札として期待されてきたのが、どんな組織にも成長し得る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)だ。
マウスの受精卵からES細胞がつくられたのは八一年。九八年、米国のグループがヒトで成功した。ES細胞の優れた点は二つ。すべての細胞に分化でき、体外で無限に増やせる。神経でも心筋でも、必要な細胞を必要なだけ用意するのも可能だろう。
ただ、自身の細胞ではないので拒絶反応が大きく、受精卵を使うことから倫理的な問題もある。このため私たちは、ES細胞の万能性を受け継いだ上で、拒絶反応と倫理問題のクリアに取り組んできた。
着目したのは、遺伝情報を読むことから「読み手因子」と呼ばれる転写因子だ。皮膚細胞とES細胞は見た目も能力も違うが、同じ人間のものなら遺伝子は同じ。遺伝子という「設計図」は辞書なら二万ページもあり、ある部分を読めば皮膚になり、別の部分を読めばES細胞になる。
要は転写因子が鍵を握っている。それならES細胞をつくる因子を皮膚細胞に入れれば、ES細胞が作製できる―それがわれわれの発想だ。
実際に使える因子を絞り込む作業を進め、二〇〇六年にマウスのiPS細胞ができた。そして昨年秋、ついにヒトのiPS細胞にたどり着いた。もちろんこれは、ヒトES細胞を作り出した先人の努力があってこそだ。
iPS細胞の万能性はES細胞に匹敵する。拒絶反応と倫理問題も回避できる。あとは安全性さえ確保できれば、再生医療の柱になりうる。脂肪組織を増やせれば、乳がんで失った乳房の再生の可能性も広がる。例えば、ドーパミンという物質をつくる神経細胞を作ることで、パーキンソン病の治療にもつながる。膵臓(すいぞう)の機能を改善させれば、糖尿病でインスリン注射を強いられている人々も手助けできるだろう。
ヒトES細胞の特許を持つのは米国。その技術を自由に使い研究するわけにはいかない。その点、ヒトiPS細胞はわが国の技術であり、知的財産だ。特許の確保を急ぎながら、病に苦しむ人々のために役立てたい。(里田明美)
【写真説明】「安全性を確保し、iPS細胞を再生医療につなげたい」と語る山中教授
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