'98/5/16
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合弁支える重圧にじむ −経済混乱 | ||
生産で連携 販売は競争
「海外販売の担当役員が、自ら乗り込んできたのか」。通貨危機で販売不振にあえぐタイの日系自動車メーカーから、驚きの声が漏れた。タイ合弁生産会社(AAT)の生産開始を前にマツダ取締役海外販売本部長の脇屋利男さん(57)が四月十六日、タイ販売会社スコソン・アンド・マツダ(SMC)の社長を兼ね、赴任したのである。
首都バンコク中心部のビル二階にある社長室。壁に掛かるタイの地図に、小さなピンが立ち並び、取引先の現地販売会社七十五社・百三十八店の所在地を示す。「タイで販売拡大するのは、AAT操業開始とともにマツダの世界戦略で最重要課題と位置付けられたのでしょうか…」。自身の人事だけに赴任理由を話しにくそうな脇屋さんだが、SMCの経営方針はきっぱり。顧客満足(CS)の向上と販売店ネットワーク再構築を掲げる。
AATが生産する小型一トントラック分野で、タイは米国に次ぐ世界第二位の市場である。昨年七月の通貨暴落までは、年間四十万―五十万台が売れていた。シェア上位を日系メーカーが独占。販売台数の六九%を小型トラックが占めるマツダは、三位グループでしのぎを削る。脇屋さんのSMC社長就任は、AAT生産開始をバネにシェア拡大を図るマツダの意気込みの表れである。 タイ経済は今も通貨暴落による経済混乱が尾を引ている。失業者は二百万人を超え、人口がほぼ二倍の日本の完全失業者数二百七十七万人に迫る。一九九六年に五十九万台だった自動車販売台数も、九七年は三十六万台と四〇%も減っている。 「やや持ち直したが、まだまだ厳しい状況です」。昨年八月に着任した副社長の首藤常之さん(56)は言う。脇屋さんは「AATの生産を軌道に乗せていくには、私たちが頑張らないと。経済環境が厳しいといって、言い訳はできません」と決意を込めた。タイではフォードより販売力が上回るマツダの思いをにじませる。
マツダとフォードはAAT生産車の輸出も計画しているが、今年生産する約一万台の大半はタイ国内で販売する。AATの生産割合はそれぞれのブランドの売れ行き次第となる。生産では手を携えるマツダとフォードも、市場での販売はライバル。車台は同じだが、外観は違う。「それぞれの開発陣が知恵を絞ったデザインの車をどれだけ売るか。競争でもあるんです」と二人は口をそろえる。シェアをさらに高めることが、マツダの開発力を証明し、独自性を保つ道ともなる。
「タイは今、混乱期にあるが、東南アジアの中心的市場であるのに変わりはない。二、三年のうちに、緩やかに回復する」。マツダでAATの事業展開をリードしてきた経営企画担当のゲーリー・ヘクスター専務(53)は、熱い視線を注ぐ。「コストと販売台数など、収益を出す数値目標は設定し終えた。目標台数を売れば、利益は出る」 マツダはタイで、共同事業を組むフォードさえライバルに回し、厳しい経済環境の中で販売競争に挑む。着任後の忙しさで、部屋の整理もままならない脇屋さんは「AATの成功は、最終的には販売台数にかかっている。大変な重圧を感じています」と言った。 |
