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和歌山県に伝わるイルカ漁を批判的に描き、上映をめぐる騒動を巻き起こした米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」が3日、公開される。日本の「特殊性」に対する「外圧」が一部に不快感を呼び起こし、反発は「言論の自由」の問題に集約される、という動きが繰り返された形だが、そんな連鎖に冷静に距離を取る兆しもある。
▽ガイアツ
和歌山県太地町の東端、熊野灘を一望する梶取崎に「くじら供養碑」はある。クジラをかたどった高さ約3・4メートル、幅約6メートルの威容。観光名所でもある碑の前では毎年4月29日、漁業関係者らが鯨類の霊を弔ってきた。
「小さな町で耕作地も少ない太地は、生きるすべを海に求めざるを得なかった。古式捕鯨が始まった約400年前から『命をいただく』という感謝の気持ちを持って鯨類に接してきた」。太地町漁協の幹部は話す。
イルカ漁を伝統文化とする主張を「ザ・コーヴ」は真っ向から否定する。「イルカの虐殺は非常に残酷。誰かが絶対に反対すべきレベルの残酷さだ」。約40年間、イルカ保護活動にかかわり、映画づくりで中心的な役割を果たしたリック・オバリー氏は6月の来日時、そう語った。
「やめさせるためにどうしたらいいか日本の仲間に尋ねたところ、“ガイアツ”を教えられた。映画は大きなガイアツになったと思う」
▽深層心理
映画館や配給会社に一部団体から「反日的だ」などとして抗議電話や街宣活動があり、公開を予定していた各地の映画館のうち、東京・大阪の計3館が上映を中止。事態は、日本ペンクラブなどの団体が声明を出す、「表現の自由」をめぐる問題に発展した。
こうした経過には、やはり上映中止を求めてきた太地町漁協も、戸惑いを隠せない。ある幹部は、「誤解と偏見に満ちたイルカ漁のイメージが広まってしまうのを心配してのこと。表現の自由は尊重したいが映画に反論する余力もない」と苦しい胸の内を明かす。
外圧に激しく揺れる日本―。そこに折り重なった歴史と日本人の深層心理をみるのは、精神分析学者の岸田秀和光大名誉教授だ。
「そもそも近代を米国の外圧で始めた日本人は、それに従順に従う部分と、プライドで反発する部分が両極端」。今回の上映問題や捕鯨問題に対する国内の反応は「こうした分裂や葛藤が先鋭化したケース」と岸田氏。「日米安保など日米関係の問題の一角として、とらえなければならない」と指摘する。
▽動画配信も
2008年、同じように上映中止が相次いだ映画「靖国 YASUKUNI」で助監督を務めた映画監督の中村高寛さんは、今回の問題を「表現の自由の問題でなく、一部の映画館を運営する会社が企業イメージを気にして降りただけ」と冷静に受け止める。
太地町で野生のイルカと触れ合う施設「ドルフィン・ベェイス」を運営する三好晴之代表は、映画がイルカの飼育も批判していることに「気にしていない」と話す。「世間が受け入れてくれている。映画に振り回されて、目に見えない“基準”に合わせる必要はない」
一方、配給会社がインターネットの動画サイトで「ザ・コーヴ」を全編無料上映する試みでは、延べ7363人が視聴。ネット時代の「ガイアツ」や「言論の自由」は、どのような形を取るのだろうか。
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