高度成長やバブル景気の繁栄の陰で、生命や健康をむしばむ劣悪な労働環境にさらされていた被害者がこんなに多数苦しんでいた―そんな状況を見逃していた私たち国民の責任をまず自覚したい。
国が主に発注したトンネル工事に従事し、じん肺を患った元作業員らが国に損害賠償を求めた。東京地裁はきのうの判決で、国の賠償責任を認め、原告四十四人に総額六千九百三十万円を支払うよう命じた。東京をはじめ広島、松江など全国十一地裁に約九百六十人の元作業員らが、じん肺訴訟を起こしている。その初めての判決である。今後の裁判に大きく影響するとともに、国に抜本的な対策を強く促した判決だと言えよう。
新幹線、高速道路…トンネル工事は全国にいくらでもあった。粉じんが工事現場の坑内に立ちこめて、一メートル先も見えない。多くの作業員はじん肺の怖さなど知らず、現場から現場へ渡り歩いた。一九七六年、大分県佐伯保健所長の調査でトンネル工事作業員にじん肺患者が多くいることが判明、報道された。マスク着用などの安全教育が始まったのは八〇年ごろという。厚生労働省の統計では、トンネル工事作業員のじん肺による要療養者は約九千人にもなる。
判決は、八六年末ごろには粉じんの出にくい湿式削岩機と防じんマスク使用を義務化したり、粉じん濃度測定を義務付けるといった省令を制定すべきだったのに怠った、と国の規制権限行使義務違反を認めた。また国が主張した賠償請求権の時効消滅(三年)については「炭鉱労働者のじん肺に対する国の責任を初めて認めた、二〇〇一年の福岡高裁判決から起算するのが妥当」と否認した。
安全配慮義務違反については「個々の工事ごとの判断が必要だが証拠がない」と原告の主張は認められなかった。また、原告五人については、坑内での作業は少なかった、と判断され、賠償は認められなかった。
トンネルじん肺についての旧日本鉄道建設公団やゼネコンなどへの損害賠償を求めた訴訟は九七年に始まったが、順次和解が成立している。しかし、「国の責任が認められないと、じん肺被害はなくならない」と、〇二年に全国十一地裁に提訴した。
原告らは国に対し「トンネル工事現場での粉じん測定義務」「作業時間短縮」「被害者への補償基金創設」などを訴えている。国は真剣に検討すべきである。
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