|
政府が年金改革の議論をスタートさせた。鳩山由紀夫首相自らが議長を務める検討会で、5月までに新たな制度の基本原則をまとめたいとしている。
「消えた年金」をきっかけに、今の制度のひずみに対する関心が高まった。少子高齢化で、将来は給付水準の維持も危うい。政権交代したのだから、土台からつくり直すという考えは当然だろう。
ただ、夏の参院選に向け政権を浮揚させたいとの思惑も見える。完全に移行するまで数十年かかる長期的な改革だけに、国民が十分納得できる案が求められよう。
当面の議論のベースとなるのが、昨年の総選挙で民主党が掲げたマニフェスト(政権公約)である。スウェーデンの年金改革を手本にしているという。
自営業者らの国民年金と、会社員の厚生年金、公務員らの共済年金。三つの制度の一元化が基本だ。その上で月7万円の「最低保障年金」を新設し、さらに収入に応じて払う保険料から「所得比例年金」が上乗せされる。
一見分かりやすいが、制度設計は簡単ではあるまい。何より財源だ。マニフェストによると最低保障年金は消費税で賄う。仮に65歳以上に一律7万円出せば年に24兆円もかかるが、本年度の消費税収は13兆円弱。一定の所得制限を設けても、足りそうにない。
鳩山首相は次の総選挙までは消費税を上げないと繰り返し明言している。だが、この案を具体化しようとするなら税制に手を付けないわけにはいかない。まさに政権の覚悟が問われよう。
国民の懐具合を政府が一元的に把握する「納税者番号」も避けては通れまい。所得比例年金の保険料を決めるため、自営業や非正規労働者も含めて収入を正確につかむ必要があるからだ。
国民年金の未納率は4割近い。払いたくても払えない人への目配りも要る。制度一元化で、将来もらう額は増えても目の前の負担が重くなるケースもあるだろう。
こうした難題は、目先の党利党略では乗り越えられまい。
鳩山政権は、もともと制度設計は2012年度から始めるとしていた。議論を前倒ししたのは、年金を争点に圧勝した3年前の参院選が頭にあるからだろう。だが「基本原則」で国民受けすることだけを並べ、残りは選挙後という姿勢ならかえって反発を招こう。
拙速は避けたい。与野党で協議機関を設けるほか、有識者や年金加入者の意見をじっくり聴くのが筋ではないか。再び政権交代があった場合に、ひっくり返るようでは困る。
足元の現状もおろそかにしてはなるまい。社会保険庁を廃止して1月に日本年金機構が発足したが、なお2千万件の年金記録の持ち主が分からない。なのに政府予算案では、台帳照合などの経費が概算要求の半額に減らされている。新たな制度の理解を得るためには、まず高まった年金への不信感を取り除く地道な努力が不可欠のはずだ。
|