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鼻歌まじりで歩くぐらいのスピードだろうか。今月下旬あたり、桜前線が九州から時速約三キロで北上を始めるというのが、一週間前の気象庁の見立てだった。どの辺まで近づいているだろう。二度目の開花予報がきょう届く▲つぼみがほころんだり、人がにこにこしたりする様子を「咲(え)む」という。明治生まれの民俗学者だった柳田国男は「えがお」と書くとき、決まって「咲顔」と字を当てた。笑い顔と咲顔とは別物で、ごっちゃにしてはいけない。そんな持論からだった▲口を開けて声を上げる「笑い」は、笑われる相手を傷つけかねない―と柳田は言う。「咲み」はそうではない。むしろ人を笑うまいとする慎み、優しさから立ち上るものだ。例えば、ほおにえくぼが咲くようなイメージが浮かぶ▲にこやかな印象といえば、最近ではクリントン米国務長官だろう。日本を振り出しにアジアから中東、欧州へ。西へ西へと進んだクリントン前線は、「国際協調」という名の花束とともに、ほほえみを各地に残していった。あれは咲顔だったのか、それとも…▲「咲み」は人生の潤滑油である。そう柳田は自説を締めくくる。この世を平穏に送っていけるよう生まれながらに持っているのだ、とも。桜の、人の「咲み」が待たれる。
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