'99. 9.17
 ある中学校の現場から

 恩師の思い 

「心は必ず生徒に届く」


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 生徒との関係に悩むたび、足立亜衣(27)は自分の小学五、六年の恩師、矢口健治(42)を思い出す。当時教師三年目の二十七歳。やっぱり今の自分と比べてしまう。

 先生は毎日、私たちに日記を書かせた。喜びも悩みも日記にぶつけ、先生からの返事が楽しみだった。クラスの成長を、先生はせっせと学級通信につづった。今の自分に通信を書く余裕すらない。追い付く日が来るのかと、足立は思う。

 矢口も、足立のことを鮮明に覚えていた。忘れられぬ出来事があった。男子にいじめられ、泣いている女の子を見て、足立は言った。「学級で話し合いたい。先生、時間をください」

 足立が、臨時のクラス会の司会を務めた。勇気を出して気持ちを話してと、女の子を励ます。「悲しくて死にたいと思ったこともあった…」。女の子の言葉にみんなが泣き出した。いじめは本当に消えた。子供の力に、ただ圧倒された。

 足立が思い出してくれるのはうれしい。が、自分は決して順風だったわけではない。試練はあった。教師をやめることも、考えた。

登場人物
 二十九歳で、矢口は中学教師に転身。一年の担任になり、子供の「荒れ」に直面した。落書き、けんか、エスケープ…。学級がどんどん崩れていく。深夜まで落書きを消した。毎日家庭を訪ねた。同僚の力も借りた。体重が十キロ落ちた。

 人生で最も苦しかった一年。でも、子供を好きでいようと念じ続けた。次第に生徒たちは自分を受け入れるようになった。巣立ちの時、成長ぶりに涙が出た。あの感動が今の自分を支えている。心は、必ず伝わる。

 「足立さんは、いい教師になる」と矢口は信じる。もし彼女が自信を無くしているのなら、いつかこの体験を話してみようかと思う。

(文中仮名。写真と本文は関係ありません)

<教師アンケートの回答から>
 教師になった理由は? 中学校の先生が個性的で、自分もあのようになりたいと思った。自分の意見をちゃんと持った生徒が、社会で活躍したらうれしい。(25歳 中学・男)▽小学校の担任の先生によくほめてもらい、絵や作文が大好きになったから。(25歳 小学・女)


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