■通院・通学 どうすれば ―地元の将来を憂う声も
広島県戸河内町上殿の田中みさこさん(83)はこの三月、夫を亡く
した。それまでの二年半、自宅に近いJR可部線の上殿駅を午前七
時十八分に出る下り列車を利用し、町の中心部にある病院に夫を見
舞っていた。「可部線があったけえ、最期をみとることもできたん
よ」
心臓の悪い田中さんは、今も二週間に一回、列車で同じ病院に通
う。「可部線、どうなるんかねえ…」。存廃論議の中、一人暮らし
の不安は募る。
加計町にある県立加計高校では、生徒の七割が可部線で通学す
る。PTA会長の森脇友彦さん(47)は「廃線になると生徒がますま
す減り、廃校になる恐れも…。若い世帯の定住も望めない」と地域
の将来を案じる。
要望入れた新ダイヤ
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JR西労組幹部と沿線自治体の初会合。存続に向けての利用
促進策が話し合われた(4月21日、広島市南区のホテル)
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一日、可部線は四月からの試験増便の再開後、初めて地元の要望
を入れたダイヤ改正をする。日曜と祝日だけ広島―三段峡間を一往
復していた「三段峡観光号」の出発は、「乗りやすさ」を重視し二
時間繰り下げた。夏の観光期は、土曜日も運行する。
新ダイヤは、JR西日本広島支社と沿線自治体との協議の成果で
ある。「初めて『利用促進』の思いを共有できた」。自治体の担当
者たちは、そう受け止めている。JR西日本最大のJR西労組との
話し合いも始めた。
JRの認識変わらず
しかし、可部―三段峡間四六・二キロの廃止計画を打ち出して三
年。JR西日本の基本認識が変わったわけではない。「大量輸送と
いう鉄道の特性は、もはやこの地域では生かせない」
確かに、終日混雑の絶えない都会の電車とは、比べようもない
が、可部線はまぎれもなく、地域の生活を支えている。「路線バス
の撤退も続く。鉄道がなくなれば、高齢者はどう生活していけばい
いのか」。戸河内町社会福祉協議会の今田一三会長(73)は、高齢化
する地域の声を代弁する。
ここ数年、広島県内では都市間路線の高速化などの実施、計画が
JRと自治体の協力で進んでいる。その半面、路線距離で半分以上
を占めるローカル線の再生策は、手付かずになっている。その中
で、可部線は県内のローカル線で初めて、廃止計画の対象になっ
た。
この問題に関心を寄せる立命館大の土居靖範教授(交通政策論)
は「環境問題や車社会の行き詰まりから、欧州を中心に鉄道は見直
されている。地方は将来的な展望に立って存続に努力すべきだ。と
りわけローカル線の再生では、県の役割が大きい」と指摘する。
「存廃は経営判断」
だが、県交通対策室の小田哲生室長は「住民の生活基盤の一つと
市町村が判断するなら、県としても廃止以外の方法を考えなければ
いけない」としながら「存廃はJRの経営判断」との姿勢だ。
加計高PTA会長の森脇さんは「『残せ、残せ』と言うばかりで
はだめ。地元の人が、一人でも多く利用しないと」。三人の息子の
ためにも「古里を残してやりたい」と、三人の息子のためにも思
う。
これまで一家で三台持っていた自家用車を最近、一台にした。可
部線の利用増進を願う森脇家の、小さな試みである。