中国新聞

 


5.試験増便の行方


 ■104日間の成果 どう次へ ―高いハードルへ再始動

 存廃を判断するため、JR可部線で再度の試験増便が始まって二 カ月。昨年十一月から百四日間に及んだ前回の熱気にはまだ至って いない。「あれだけの運動やってきたんだから、少し気が抜けたの かも」。広島県加計町の会社員佐々木敏之さん(61)は、四月以降の 乗客減が気になっている。

 一九五八年から四十年以上、可部線で広島市内へ通勤を続ける。 過疎高齢化で乗客の減る様子を見続けてきた。存廃の結論先送りに は「正直ほっとした」と言う。だが、一年後にどうなるのか、多く の住民と同様、不安をぬぐえないでいる。

 輸送密度358―323人

 それを裏付けるデータも出ている。「土、日曜日、平日とも乗車 密度は三百五十八〜三百二十三人」―。試験増便が再開した四月、 沿線市町村でつくる可部線対策協議会が三日間実施した利用調査で は、存続の目安としてJRが示した八百人の半分以下にとどまっ た。

可部線を利用し、イベントに参加するためホームに降りる行 楽客(3日、広島県筒賀村の田之尻駅)

 運動の出遅れも影響しているが、一年延びたことで「百四日間の ムードをもう一度燃え上がらせるのは大変なパワーがいる」と加計 町の佐々木清蔵町長(56)。来年二月に控えたバス路線の廃止届け出 制移行問題も加わり「まるで袋小路」と、苦しい胸の内を明かす。

 それでも、それぞれの持ち味で試験増便を乗り切った自信は大き い。しにせの温泉街を生かした湯来町▽運動を契機に住民主体の町 づくりが進む加計町▽三段峡など可部線観光の中軸の戸河内町▽交 流施設を活用した筒賀村▽多彩なアイデアで沿線の魅力を情報発信 した広島市…。

 「増便の成果を生かす一年にしなければ」。運動にかかわってき た戸河内町観光協会の高下務会長(53)は力を込める。

 筒賀村では井仁の棚田などを生かした年間三十回以上のツアーが スタートした。三段峡ハイキングや温泉パック、イベント開催など で沿線は再始動を始めている。沿線自治体が旅行業者に委託した三 回のモニターツアーには三十組の募集に、五百五十組が応募した。

 将来ビジョン必要

 こうした地域の盛り上がりを認めた上で、前加計町商工会会長の 河野仁士さん(62)は言う。「十年後、二十年後を考えれば、住民努 力だけでは限界がある。要は国が過疎地をどう考え、将来ビジョン を描いていくかだ」

 JR黒字三社の民営化に伴う改正JR会社法は今秋に施行され る。赤字ローカル線廃止について「路線の適切な維持」など国鉄改 革の趣旨を踏まえた指針が設けられ、正当な理由なく反する場合 は、勧告がされる。

 なぜ黒字会社のローカル線が廃止されなければならないのか―。 素朴な疑問が解けないまま、もがき、苦しむ沿線地域。戸河内町の 野上昭典町長(72)は「可部線は(広島市の)横川からつながる一本 の路線。全体では乗客は増えている。途中で切られるならば、すべ てのローカル線はどうなるのか。国全体で考えてほしい」と訴え る。

(おわり)

<この連載は西原太、西村文が担当しました>

 
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