中国新聞

 10.移行の可能性

 ■地域振興効果を考慮  「鉄路も道路」発想転換必要

地図「廃止区間」

 「JR可部線は一本の路線。一部だけ廃止という理論自体おかし い。三セク経営は全線で考えないと難しい」。全国情勢に詳しい第 三セクター鉄道等協議会の恩田利章事務局長(73)は指摘する。

 廃止計画区間の可部(広島市安佐北区)―三段峡(広島県戸河内 町)は昨年度、一キロ当たりの平均乗車数を示す輸送密度は一日四 百八十七人だった。一方、山陽線と接続する都市部の横川(同市西 区)―可部間はここ数年、同約一万八千五百人で推移。可部―三段 峡間だけの三セク化の難しさをデータが裏付ける。

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国特別名勝・三段峡の涼しさを求め、三段峡駅のホームに 降りる行楽客(広島県戸河内町)

 広島市と沿線四町村でつくる可部線対策協議会も、経営安定化の ために可部線全線の三セク化を視野に入れ、可能性を模索する。こ れまでにJR西日本から必要なデータの提出を受けた。

 他の三セクを参考にした修正値では、廃止計画区間の年間赤字は 現時点で約四億円。さらに精査し、代替バスに転換した場合の収支 も合わせ、九月中旬に提示。十一月までに「鉄路かバスか」の議論 に入る。

 ▽土地・施設 投資重く

 しかし、全線三セク化を含め、鉄路維持をめぐる現実は厳しい。 旧国鉄から移行した三セクのように、鉄道施設の無償譲渡や転換交 付金、運営補助金はない。土地、施設の取得や新たな施設整備の初 期投資も必要になる。費用は可部―三段峡間で十数億円。全線では 施設整備などだけで数十億円ともみられる。広島市の幹部は「厳し い財政状況で、すぐ方針を決められる段階ではない」と言う。

 JR側も、横川―可部間は「広島を中心とした鉄道ネットワーク の一環。乗客の利便性などを考えるとJRで営業した方が効率的。 維持していく路線」と、現時点で譲渡の考えはない。

 今後、厳しい選択を迫られる沿線自治体。県交通対策室の小田哲 生室長(50)は「沿線市町村から具体的な計画が出れば検討する」と 成り行きを見守る。

 JRの赤字三社が国の支援を受け、路線が維持される一方、黒字 の西日本の可部線がなぜ廃止に。人口格差がある都市と農村を同じ 基準で判断する規制緩和の矛盾…。疑問が解けないまま、三セク論 議が一人歩きする恐れもある。

 加計町の栗栖吉三郎総務課長(54)は「単に可部線だけでなく、ロ ーカル線の置かれた厳しい現状に対し、国全体の交通体系をどうす るのか、一から考えてほしい」と要望。各地の三セクの頑張りに 「中山間地で鉄道の果たす役割の重要性を感じる」と訴える。

 ▽道路予算も配分を

 戸河内町観光協会の高下務会長(54)は「三セクの議論をするな ら、数字だけではなく、存続運動でこだわってきた地域振興への効 果、環境面での将来性などすべてを考慮すべきだ」と主張する。

 交通政策を専門にする関西大商学部の安部誠治教授(50)は、人口 減が予測される中、都道府県と住民の積極的なかかわりが公共交通 維持のキーワードとみる。自治体がインフラ整備をし、事業者が運 行する「上下分離」の推進や、水道など公共料金の基本料金的な発 想で、交通機関の利用者がグループで会費を募り、鉄道などの維持 に生かす試みに注目する。

 道路予算の見直しが叫ばれる現状で「予算の一部でも鉄道に回す ことができれば。鉄道を道路と考える発想の転換が必要」と提言し ている。

 ≪メモ≫98年9月、JR西日本が可部線横川―三段峡間60・2キ ロのうち、非電化の可部―三段峡間46・2キロの廃止・バス転換の 方針を正式表明した。00年3月の改正鉄道事業法の施行で、路線参 入、撤退が事実上自由化。JRは利用状況を見極めるため、同年11 月1日から104日間の試験増便を実施。官民一体の運動が実り、 輸送密度1日759人と存続基準の800人に迫り、01年4月から 1年間、再度の試験増便となった。結果は487人で基準を下回 り、JRは今年5月27日、11月末の廃止申請の届け出を沿線に伝え た。

(おわり)

この連載は山中裕文、西原太、木原慎二、松本大典が担当しました。

(2002.8.24)

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