せみ時雨がふり注ぐ中、四十四段の階段を上ると、殿賀地区をほ
ぼ見渡す高台に駅舎がある。ホームの下を流れる江河内谷川の音が
ちょっとした涼感を与えてくれる。
「逆さ杉」と呼ばれる一本杉が駅舎から約三百メートル加計寄り
にある。「覗堂(のぞきどう)」というお堂の傍ら、高さ約二十メ
ートルの老木は上方が太く、古くから、回国中の鎌倉幕府の執権北
条時頼が残したつえが根を張ったとの言い伝えが残る。「昔は観光
バスが立ち寄っとった」。近くの住民が教えてくれた。
千年の歴史を持つ堀八幡神社には、十九世紀半ばに造られた高さ
五・五メートル、笠石(かさいし)の広さ畳八畳分の石灯ろうが残
る。自然石で造られたものとして日本最大といわれる。
一九八八年七月の土石流災害を伝える災害碑、穀物を貯蔵した江
戸期の社倉や氷室跡…。地区では五月の花田植えの時初めて、見物
客に地域を紹介するマップを配った。
堀、高下の二神楽団や殿賀田楽保存会が地域の伝統を継承する。
十月にある堀八幡の流鏑馬(やぶさめ)は十五世紀から伝えられ
る。
同神社宮司の森脇盛雄さん(90)は「太田川流域にしては土地が広
く、早くから開け、文化や伝統がはぐくまれた。自然に人が住み始
め、発展していった力強さが今も地域に息づいている」。