細かいサービス体制急務
 ホームヘルパー

 お年寄りや障害者の家庭に出向き、家事から身体の介護までさま ざまなサービスを行うホームヘルパー。施設から在宅へ介護の軸足 を移す来年四月からの介護保険では、在宅のかなめの役割を期待さ れ、養成研修に応募者が殺到している。しかし、負担が増す現在の 利用者からは「利用が難しくなるのでは」と心配する声も上がる。 利用実態に応じたきめ細かなサービス体制づくりが求められてい る。(部谷 修)




利用者

 自立なら打ち切り ―買い物・掃除…ニーズ多彩

<ホームヘルパー> 日常生活に支障のある高齢者、障害者などの 家庭に出向いて調理、後片付け、洗濯、掃除、買い物、食事の介 助、清拭(せいしき)、生活動作訓練、相談援助など家事や介護を 行う。

 歴史は浅く、一九六三年に生活保護世帯対象の老人家庭奉仕員派 遣事業として始まった。資格は特になく、八二年から採用時研修が スタート、九一年から都道府県単位で「訪問介護員(ホームヘルパ ー)養成研修」が行われている。高度な一級課程二百三十時間、介 護中心の二級百三十時間、家事中心の三級五十時間で、研修修了を 採用の条件にしているところもある。

 「火曜日が楽しみで、前の日には茶菓子を買って待っているんで すよ」。中国山地の山懐、広島県比婆郡口和町で一人暮らしをする 元教師の三上成雄さん(73)は、週一回のホームヘルプサービスを心 待ちにする。朝十時に来るヘルパーはまず血圧測定など健康チェッ クをし昼まで二時間、主に自宅の掃除をする。ヘルパーの中には教 え子もおり、合間に話をするのが三上さんの生きがいの一つだ。

掃除の手を休めたヘルパーの女性と話す三上さん(広島県 口和町)

 六年前に脳こうそくで倒れ、左半身が思うように動かなくなっ た。一年後に妻が死亡、近くに住む共働きの二男夫婦に負担が掛か り過ぎると、三年前からヘルパーを利用する。「左手が使えないの で重いものは持てないし家事は無理」という三上さん。「回数を増 やしてほしいくらいなのに、介護保険で『自立』になるとサービス が受けられない。人情はないんですかね」と憤る。

 三上さん宅から車で二十分、山の中腹にある塚本道子さん(65)方 には日曜日を除く週六日、ヘルパーが通う。義母のイツノさん(98) が寝たきりになって二年七カ月。介護のため仕事を辞めたものの、 車の運転ができない塚本さんだけでは十分な介護はできない。

 「買い物はヘルパーさん頼み。薬も届けてくれる。今まで通りの サービスを続けてほしい」と言う塚本さん。介護保険になると二人 分の保険料とサービスの一割負担がある。「年金暮らしなのでいく ら負担できるか。一日おきに来てもらうしかないですかね」。小さ くつぶやいた。

 口和町は人口二千九百人弱で高齢化率三四%の過疎の町。町社協 によるホームヘルプ事業は常勤五人、非常勤二人、登録十三人が早 朝、夕方を含む三百六十五日体制で行っている。しかし、「自立と されても買い物や食事、掃除など支援の必要なお年寄りは、過疎地 にはたくさんいる」と、昨年十二月から新形態の「やまびこネッ ト」を近隣四町村社協と始めた。

 介護保険で漏れる人たちも一時間二百円の負担で看護や買い物な どちょっとした手伝いをしてもらえる仕組み。国の補助事業だ。上 田正之事務局長は「介護保険は住民が必要な福祉サービスのほんの 一部しかカバーしない。制度を生かしながら、みんなが参加してみ んなが求める福祉を実現するしかない」と話す。


養成研修

 希望者多く過熱 ―収入はパート並み

 

 労働省の外郭団体、介護労働安定センター広島支部が広島市中区 で開いているホームヘルパー三級の養成研修を、八月初めに見学し た。三十三人の研修生の大半が失業保険受給者で男性三人が交じ る。  

お互いがモデルになりながら洗髪の実習をするヘルパー研 修生(尾道市の尾道YMCA福祉専門学校)

 その一人、三原市のTさん(40)に参加の動機を尋ねると「新聞で 連日介護保険が話題になっている。福祉はこれからの仕事。やりが いもあり、リストラもないだろう」。すぐ返事が返ってきた。四月 末に会社の都合で退職。職安の掲示板で研修を知った。「小学生の 息子もおり早く職に就きたい。できれば手取り二十万円はほしい」 と期待。毎朝五時半に起床して通う。

 同支部は三年前に年間八回だった研修を昨年から二、三級合わせ て十三回に増やした。各回四十人で無料。対象は職安などの紹介に 限っているが一般から問い合わせが相次いでいる。

 広島県の委託で県社会福祉協議会が県内二十三会場で開いている 研修会は、一―三級の募集九百七十人に対し申し込みは二千五百六 十人。会場を増やし千百五十三人の受け入れを決めた。その際、対 象外だった広島市の希望者から千件を超す問い合わせが県社協など に殺到。広島市は九月にも研修を検討するなどヘルパー人気は過熱 している。

 同県は九八年度末で約千五百人のヘルパーを、介護保険の始まる までに二千百五十人に増やす計画で、「量的に十分確保できる」 (県高齢者福祉課)と話す。

 ただ、ヘルパー希望者と現実との間にはギャップもうかがえる。  尾道会場で二級の研修を受けた小川民江さん(43)=尾道市=は昨 年十月に三級研修を受け、週四日ヘルパーとして働く。一日四カ所 を回る二日間は移動を含めて八時間かかる。それでも収入は月五、 六万円で「普通のパート並み」という。

 さらに介護保険に移行し、一割の利用料負担が難しい家庭が訪問 回数を減らすなどの事態になれば、ヘルパーが思うだけの収入を確 保するのは難しいケースも出てきそうだ。


広島県連絡協 田守会長に聞く

 個々との契約 資質問われる

 

「介護保険に向けてヘルパーの意識改革が必要]と話す田 守さん  

 介護保険でホームヘルパーの仕事はどう変わろうとしているのだ ろうか。「家庭生活のお手伝いだけでなく、自立支援に結びつけ、 頼りにされるヘルパーにならないと生き残れない」。広島県ホーム ヘルパー連絡協議会の田守宏好会長(44)=口和町社会福祉協議会ト ータルケアマネジャー=は厳しさを強調する。

 これまでヘルパー事業は主に市町村の委託を受けた社協や老人施 設が、市町村の措置を受けた人を対象に行ってきた。「介護保険に なると利用者個々との契約になる。お客のニーズを見極め、それに 応じた多様なサービスを提供する力が問われる」と言う。

 また、利用者の自立を目標とするケアプランの一部に位置づけら れるため「徐々に離床を勧め、ときには介助を自制して相手を見守 り、脱水を起こさない水分補給に気を配るなど資質向上が欠かせな い」と表情を引き締める。

 在宅サービスのかなめとしてヘルパーに期待が掛かる半面、「社 会的評価はまだ低く、報酬も高いと言えない」と指摘する。現場の ヘルパーは保険で評価されない家庭や経済の状態を考えながら介護 や家事援助を行う。「おいしい料理を作り、掃除、洗濯をしたかと 思うと体をふいたりおむつの世話をする。心配事の相談にも乗る。 簡単な仕事ではないんですよ」

 一番気になるのは利用者の動向だ。「現在の利用者で保険の対象 外になったり、一割の自己負担が払えなくて一時的に利用が減るこ とも予想される」とみる。それでも、自治体や民間などでヘルパー 研修は盛んに行われている。「多くの人がヘルパーに関心を持って いる。住民から認められ、やりがいのある職場にしたい。そのため にも働きに見合った報酬を」と望む。