![]() |
戸惑う利用者 訪問看護はどう変わる
|
|---|
| 現場では |
|---|
「お湯は熱くないですか」。声を掛けながら手洗いをする訪問看護婦(広島市西区) |
日差しのやわらかい十月末の午後、広島市西区の住宅街に上土居ハ ルエさん(92)宅を訪ねた。十四年前脳こうそくで倒れ、病院や施設 で過ごした後、四年前から娘のハツエさん(60)の世話で自宅療養を している。右手が少し使えるだけでほぼ寝たきり。痴ほうもあり言葉はほ とんど話せない。何かしてほしいときは腰をたたいて知らせ る。
ホームヘルパーの女性が洗濯物を干している間、ハツエさんは台 所で夕食の準備。ヘルパーがハルエさんを車いすに移して日光浴に 連れ出すと間もなく訪問看護婦の寺本直美さん(28)がやって来た。
「今日はええ天気じゃね」。寺本さんが話し掛けるとハルエさん の目が細くなる。ベッドに戻ったハルエさんの血圧、体温、脈を測 り聴診器で腹の音を聴く。「顔色もいいですよ。じゃあ体をきれい にしましょうね」。電気ストーブで暖めた部屋にお湯を運ぶ。
ハツエさんは「ヘルパーさんは家事で手いっぱい。体のことは看 護婦さんに任せると安心できる」と言う。広島市郊外に自宅がある が、ほとんどハルエさんに付きっきり。日曜を除く週六日間、昼間 の八時間から三時間、ヘルパーか訪問看護を依頼、夜は泊まり込 む。公的制度を活用しても毎月十六万円の負担だ。
「母は毎回派遣されてくる人になじむまで時間がかかる。介護保 険では限度額を超える長時間利用は全額負担になる。どうなるのか 気が重い」
九年前に脳こうそくで倒れた昆豊子さん(90)は翌年から広島市南 区の自宅で療養している。病状が悪化した六年前から二女(57)の家 族が同居して世話をする。体は動かせず言葉もしゃべれない。心臓 が弱いうえ自力でタンが切れず、あごも外れやすいなど二十四時間 見守ることが必要な状態だ。
「慢性の寝不足」と二女。毎月十日間のショートステイと週二回 のヘルパー、週一回の訪問看護の時間に買い物などで外出できる。 「入浴は体全体の状態をプロの看護婦さんにみてもらわないと不 安。タンの吸引なども任せられる」と訪問看護を頼りにする。週に 一、二度は医師、歯科医の往診も受け、介護より看護、医療に比重 をかけている。
現在の自己負担はショートステイの月六万円と寝台タクシーの往 復二万円の計八万円。二女は「医療サービスがすべて介護保険に移 ると母の要介護度では限度額を超えそう。でも、必要なケアは頼ま ないといけない。医療保険との線引きを早く教えてほしい」と望ん でいる。
| 医療と介護 |
|---|
十一月初め、広島市内で約二百人が参加して開いた広島県訪問看 護ステーション協議会(山口昇会長、百十事業所)の職員研修。県 介護保険推進事務局の小林昭博専門員が介護保険の施行準備状況や 訪問看護ステーションの役割について説明を終えると、会場から質 問が殺到した。
広島県の担当者から介護保険の最新情報を聞く訪問看護ステーションの職員(広島市中区の広島厚生年金会館) |
その中に、在宅介護サービス計画での介護と医療、特に訪問介護 と看護の関係についての問いがあった。小林専門員は「(医療行為 の補助など)専門性のあるケアは看護婦しかできない。計画を作る 時に、自立支援のためには身の回りの世話だけでなく看護婦の仕事 が必要だと利用者にしっかり説明することが大切」と指摘した。
在宅サービスの現場で、訪問看護とホームヘルパー、そして医療 保険と介護保険の線引きが、利用者には分かりにくい。厚生省の示 した介護報酬の仮単価(三十分以上一時間未満)は、ヘルパーの家 事援助千五百三十円、身体介護四千二十円に対して訪問看護ステー ションからの訪問看護は八千三百円と二倍以上だ。
これまで訪問看護の利用者負担は老人医療で一回二百五十円。ヘ ルパーより安いケースが多かった。ところが介護保険に移行する と、一割負担で八百三十円にはね上がる。現場では「要介護度によ っては訪問看護からヘルパーに切り替える利用者が増えるのでは」 と心配する声があるのはそのためだ。
一方、厚生省の示す医療保険との区分けは「介護の必要性に対応 する医療サービスは介護保険。急性期医療などは医療保険」。介護 保険の対象になる訪問看護も(1)急に容体が悪くなった時(2) 神経難病、がん末期など週四日以上の訪問看護が必要(3)精神科 訪問看護―のケースは、利用限度額にしばられない医療保険を適用 する。分かりやすく言うと「現在医療保険で患者負担分をみている 難病や人工呼吸器が必要な場合は医療保険」(山口会長)となる。
この線引きも「正式決定は医療保険の見直しと合わせ来年二月に
なる」と厚生省。このため「来年度の収支見通しが立たない」(広
島市内の訪問看護ステーション)と、現場での戸惑いは続いてい
る。
| 広島県看護協会訪問看護推進支援委員長 栗栖ミツエさんに聞く |
|---|
◆◇ 体調などを判断しケア ◇◆
![]() |
介護保険導入に訪問看護の担い手である看護婦(士)はどう対応 しようとしているのだろうか。広島県看護協会で訪問看護推進支援 委員会の委員長を務める栗栖ミツエさん(73)=写真=に聞いた。
―訪問看護ステーションの設立が加速されています。
医療と福祉の総合展開を考えている病院など医療機関併設のステ ーションが増え、広島県では整備目標の百三十カ所を超えた。入院 期間が長くなると病院の収入が減るようになったため、早く退院し て自宅療養する人が増えているのも大きな要因だ。訪問看護の役割 がますます重要になっている。
―介護保険をどう受け止めていますか。
介護の社会化を実現するため、看護の立場で積極的に参加した い。ただ、厚生省が示した介護報酬仮単価は現行の医療保険に比べ て一割方低い。介護保険だけに頼ると運営は厳しくなりそうだ。単 価を上げると身体介護のホームヘルパーに利用者が流れる面もある が、看護婦の仕事を正しく評価してもらいたい。
―身体介護のヘルパーとの違いは何でしょうか。
もともと介護は看護の一部。同じように身体を清潔にする場合で も、体調や医学的にどんな状態かを総合判断しながらケアをするの が看護婦だ。ヘルパーに医学的な情報提供をする役割もある。もち ろん医師の指示に基づいて、タンの吸引や在宅酸素療法の指導、緊 急時の対応指示など医療的な援助も行う。本人や家族は安心できる と思う。
―訪問看護婦に資格はあるのですか。
看護婦、助産婦、准看護婦、保健婦であればできる。ただ、身近に医師や 先輩看護婦のいる病院と違い、患者の自宅でとっさの判断を求めら れるので幅広い経験や知識が必要。協会では一九八四年から痴ほう などお年寄りに多い病気への対処の仕方や老年心理学などの研修を している。当初は一週間だった研修期間はここ数年三十日間に延ば し、年二回四十人余りずつ学んでいる。訪問看護婦の一層の質向上 に努めたい。