中国新聞
2002.10.11

大切なものは身近にある/「橋」「景観」鞆の総意出す時

 福山市の明王院や、草戸千軒遺跡のある芦田川でよく遊んでい た。小学生のころは、五重塔が何百年も保護された国宝級の文化財 であることを知らないし、河原から出てくる土器の破片の価値なん て分からなかった。意外と身近にあるものですよね、後世に残し伝 えていくべきものは。
 今、その歴史や文化を守る仕事に就いている。備後には尾道や鞆 の浦のような古い町並みも残る。ぜひ歩いてみてほしい。雄大な歴 史の中に自分があるのだと感じることができる。「壊してはいけな い」という思いもわき起こるはずだ。
 古いものを、もっと大切に。郷里を思うたび、そんな願いが頭に 浮かぶ。

「びんご人国記 ふるさと応援団」

文化庁文化財部長
木曽 功さん
(50)

 福山市の鞆地区で準備が進む、重要伝統的建造物群保存地区(重 伝建)の選定。担当事務方トップの立場から、一日も早い申請を待 つ

Photo「木曽功」
  きそ・いさお
52年
尾道市に生まれる
59年
福山市に移る
76年
東京大を卒業後、文部省(当時)に入省
87年
在仏大使館一等書記官
96年
広島県教育長に就任
98年
広島県高校入試の総合選抜制度を廃止
02年
文化庁文化財部長

 僕も子どものころは、よく鞆に遊びに行った。古い寺や町並みが たくさん残り、歴史の積み重ねを感じさせる。文化的な価値は非常 に高い。

 地元住民が考える以上に注目され、文化庁にも鞆の担当者を置い ている。全国の文化財関係者も保護のあり方を議論する。ローカル の枠を飛び出して、日本中に誇れる町だ。福山を離れて「霞が関」 にいる方が認識できることかもしれない。

 鞆では、重伝建申請も港の埋め立て架橋計画の推進も、行き詰ま っている。町の将来像はいまだ見えない

 ただ一つ言えるのは、残された時間は少ないということ。文化財 は一度壊したら、修復しない。開発して交通の便を取るか、町並み を残して観光資源とするか。住民が議論を尽くして、総意を出す時 が来ている。

 個人的な意見としては、「道が欲しい」というのが、地元の正直 な気持ちだと思う。架橋が駄目なら、地下に道を通す手も、う回さ せる方法もある。貴重な景観との両立を目指し、ベストの方法を選 ぶのが、鞆の住民に出された宿題だ。

 七月までは文部科学省国際課長を務めた。官僚としての大半を教 育の充実に注いできた

 二〇〇〇年の沖縄サミットで、先進八カ国の教育大臣会合を準備 した。大変だったが、教育課題は万国共通と気付いた。学力問題、 不登校、いじめ、校内暴力…。日本の教育の悩みはどこにも存在す る。国の枠を超えた議論を頼もしく思えた。

 広島県の教育長時代には、高校入試改革にまい進。四十二年間続 いた総合選抜制度(総選)を廃止した

 広島県のゆがんだ教育の根底に総選があった。導入時は、受験競 争の抑制という目的があったのだろう。出来上がったのは、切磋琢 磨(せっさたくま)や競い合いをすべて否定する「行き過ぎた平等 主義」。学力が伸びない。規律も身に付かない。保護者の期待にこ たえるには、教職員組合などと正面から話し合って、制度を変える しかないと腹をくくった。

 木曽は強調する。「広島の教育は再出発した」と

 旧文部省の是正指導が入ったのをきっかけに、教職員や行政、保 護者がみんなで教育環境を考えた。地元の学校を守るのは、国では なく地元の住民や教職員だ。教育委員会対組合という感情的な対立 の構図が薄れ、子ども最優先の学校づくりが少しずつ進んでいるよ うに見える。

(文中敬称略)

 ◆提言◆ 町づくりも「原点回帰」を

 沈滞する古里を思う時、解決策の一つは観光客の確保ではない か。
 教育長時代に、ずっと考えていたのが、教育の原点回帰だ。先生 が信じる教育の押し付けでなく、子どもが学びたいことを学べる学 校づくりを目指した。
 重伝建や架橋問題で動きのとれない鞆地区でも、原点に帰るべき ではないか。なぜ橋が必要で、重伝建の本来の目的は何か。文化庁 や全国の有識者が注目していても、自分たちの生活空間を良くする のは、結局は自分たちだ。
 このまま決断を先送りにした場合の影響も考慮しながら、賛成と 反対の両者が立場を超えて、町のあるべき姿を模索しないといけな い。

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