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経済力こそ外交手段
第二次小泉内閣が十九日、正式に船出した。二十一世紀に入り初めてあった先の衆院選の結果から見えてきた新たな潮流や、混迷するイラクへの自衛隊派遣、北朝鮮をはじめ東アジアの安全保障への対処は―。神戸大大学院法学研究科に、日本の政治外交史を専門とする五百旗頭真教授(59)を訪ねた。
(編集委員・西本雅実)
互いに貴重な日米同盟
―総選挙で表れた結果について、どのような点に着目されていますか。
小泉政権が、移ろいやすい人気に支えられているにもかかわらず、中曽根政権(一九八二―八七年)以来、二年が限度だったこれまでの政権から長期化をうかがうようになった。民主党が躍進し、二大政党の様相を築きつつあるのは、これまた驚くべきことです。
戦後日本は実は一つしか統治政党がなかった。五五年体制は保革の二大政党といわれたが、社会党はありえない期待値との差において批判するのが習わしで、実態は一党優位性だった。自民党以外に、包括的な国民政党が形を成してきたことは大きいですね。
―欧米のような政権交代が可能になると。
米国でいえば共和、民主の関係に似てきた。小泉さんの改革は小さな政府を志向し、安全保障は積極論。菅さんの民主党はやや福祉・平等派であって、安全保障は若い世代は違うが慎重論。似ているけれども、力点の置きどころの対比が緩やかにある。そうした二つの包括政党であれば、国民は一方がおかしくなれば他方へ切り替えができる。われわれはようやくその自由を手にしつつあるということで、今回の選挙結果を高く評価します。
政権交代のカギ
―政権交代はどんな場合に起きると見ますか。
小泉さんが期待をかきたてた改革の実が上がり、経済がよくなれば長期政権となる。しかし、国民が裏切られたと思ったときは批判政党ではない民主党があり、国民は割と気楽にスイッチできる。それを投票行動で表すのが無党派層と呼ばれる人たちなわけです。番外編で強烈な作用をもたらすのが、イラクへの派兵問題だと思います。
―国際社会への関与、イラク復興のうえから、総選挙前は朝日新聞の論壇(十月二日付)で自衛隊派遣に伴う覚悟を言っておられました。
イラクが崩壊したらサウジアラビアと、ペルシャ湾の油田地帯の中心が崩れる。七三年の石油危機どころではない。当時の日本の石油依存度は七割が今は九割です。欧米は北海油田もあり半分から三分の一。あの地域の崩壊で日本は強烈な打撃を受ける。テロの温床になれば経済、安全保障の両方から最悪の事態となる。犠牲を覚悟してでも米英や三十数カ国とともに支えるべきだと思います。しかし、日本が覚悟して派兵することが、意味を持つ環境ではなくなってしまいました。
―その判断は。
夏に英国で講演してから連絡を取り合う情報専門家によると、報道されないけれど英軍も相当にやられている。外国の部隊がいる所が戦線となっている。米軍の掃討作戦は民家の寝室にも入り、肌を人前で見せない女性を侮辱することにもなり、民心は排外派となっている。われわれはいいやつです、は通じない。(政府が派遣を想定する)南部で、イタリアが攻撃された事実(十二日、自爆テロで民間人を含む二十七人が死亡)は重い。
政治は結果重視
―自衛隊の派遣はするべきでないと。
われわれは助けを求める人に、ライフラインとか経済の建設を支援したいわけですよね。イラクの人たちが、日本を新たな外敵と見なす以上、望ましい結果は期待できません。政治は結果、効果が大事。派兵する理由がなくなってしまった。
―対米重視の小泉政権が「派遣しない」と決断しても、米国がそれを受け入れますか。
小泉政権が日米同盟を重視するのは対米関係、世界の安定にはいいことです。「何とか送る」とこれまで誠意を示してきたから、小泉さんと気が合うブッシュ大統領は理解するでしょう。ラムズフェルド国防長官は腰抜けと思うでしょうが。だからといって、米国は日米関係を破たんさせようとは思わない。なぜなら朝鮮半島からインド洋までの安全保障で協力すべき面が多いからです。
―核開発を公言する北朝鮮の脅威に備えるためにも、派遣には応ずるべきだとの論調には。
東北アジアの安全保障は日米韓の枠組みが大事です。しかし、韓国では若い世代に反米・嫌米が吹き荒れている。今は中国が「六カ国協議」で北朝鮮を説得しようとした。もっとも、これは中国の国益と戦略。際どい問題を共同で相談することは期待できない。米国は日本が一番の話し相手であるのは変わらないし、手放すとアジア戦略が成り立たなくなる。われわれが思っている以上に、日米同盟は米国にとっても貴重なんです。
―派遣しなくても日米関係は壊れない。
そう思います。
―では、日本が国際的な安全保障、平和の構築にどう関与していくべきだと考えられますか。
戦後日本の強みはシビリアンパワー、つまり非軍事の面、経済を中心にした経済・文化交流でしかないんです。
―そのパワーは共通の安全保障の認識がない東アジアで難しいのでは。
国際協調主義で
そうかなぁ。東アジアは、吉田ドクトリン(吉田茂首相。四六〜四七、四八〜五四年に内閣を率いて軽武装・通商国家という戦後日本の路線を確立)のすう勢にある。中国も七九年に〓(トウ)小平が改革開放を示し、経済建設で競いましょうとなった。唯一の例外が北朝鮮。中国も手を焼く荒くれ者を何とかこなせば、東アジア全域に共有される。日米同盟があるからできないというのは冷戦期の思考。日本は同盟を隠れた背骨にして、この地域で新しいコミュニティーをつくっていく。息長い積極的な意味を持ちえると思いますね。
―二十一世紀も非軍事、国際協調主義で進むべきであると。
安全保障への対処は少なすぎたから三つの面で強める必要はある。国連の下でのPKO(国連平和維持活動)に参加する。このアジア・太平洋を誰も軍事力では変えないよう、経済・文化交流を深めるためにも日米同盟を維持する。北朝鮮の拉致や不審船、オウムのようなテロリズムの防止には自助努力をする。それで日本が軍事国家になるかといえば、およそものを考える人なら全然違うと分かるでしょう。われわれの積極的な活動や手段は経済であり、シビリアンパワーだからです。
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現実論から安全保障
イラクへの自衛隊派遣は「望ましい結果が期待できない以上、派兵する理由はなくなった」。五百旗頭さんの論旨は「政治は結果、効果」の現実論に立つ。派遣に対して「憲法、平和を守れ」というような、議論の土台と結論が同じでしかない教条主義的なものとは大きく隔たる。
それは、国益という最大多数の利益を追求する政治の要諦(ようてい)を見据え、世界は必ずしも自分たちが思う善意の人たちばかりではないという国際社会の冷厳さを知るからだろう。被爆地・広島の平和運動に決定的に欠けている視点、思考でもある。
自らは「歴史研究者」という五百旗頭さんは、衆参両院の憲法調査会で意見を述べた第九条と安全保障をめぐる論考、ヒロシマが持つ意味についても明快に言及した。
その一端を紹介すれば「平和への志はしっかり持つ。しかし、問題はよくつかみ、いい結果を出せる知恵が要る」。被爆六十周年に向けて、ヒロシマ体験を国内外の安全保障、平和の構築にどう生かすか―。あらためて考えを聞く機会を約束し、二時間にわたるインタビューを終えた。
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