第 2 部 「 暮 ら し と 交 通 」 を 終 え て
2002.2.24

 中国山地の生活交通を確保する多様な試みから見えてくるものは、やればできる、ということだ。それも廃止路線の単なる代替措置ではなく、「こんな乗り物こそほしかった」と住民が喜ぶ路線を創造する知恵があって初めてうまくいく、という事実である。小回りの利く市町村だからこそ可能。住民の意識と自治体のリーダーシップが問われる分権時代の格好の行政課題だろう。(中国山地取材班)

 ■専門部署置き 指導力を

 成功とみえる事例も「もう一歩進めたら」と思う例は少なくない。一つの自治体にスクールバスや患者輸送バス、デイサービス送迎車などが混在する。その路線や運行時間も重複。揚げ句に温泉など交流施設も集客に送迎バスを走らせる。なんとか効率的な運用はできないのか―。
公用車のレンタル制度で役場の福祉車両を利用する住民。新しい試みだ(広島県東城町)

 昨年から地元、庄原市の職員や住民との生活交通研究会を主宰している広島県立大の野原建一教授は、その体験からこう問題提起する。

 「病院や温泉通い、登下校、買い物など住民の細かな移動ニーズをまるごと考え、路線に結ぶのが生活交通。まさに自治体の出番なんですが、悲しいかな、行政の仕組みとして横断的に生活交通を見渡す部署、交通政策を考える組織が無いのが実態です」

 島根県の肝いりで、江の川流域の八市町村の役場や住民、交通事業者がまとめた「江の川圏域生活交通確保調査報告書」(二〇〇一年三月)でも、バスの縦割り運行にメスを入れている。改革の要点は「交通サービスの整理・統合」として、スクールバスや患者輸送バスへの一般住民の「混乗」、路線バスと行政バスの一元化などを提案している。

 縦割り行政は、車両購入や運行経費の国庫補助金の流れからきている。スクールバスは文部科学省、通院バスは厚生労働省、過疎バスは国土交通省といった具合。これが役場段階では教育委員会、保健福祉課、総務課となる。

 例えば―。少子化で学校統合は今後ますます進む。スクールバスを購入せざるを得ない市町村では「せっかくだから空き時間を住民のために使いたい」という声を聞く。週休二日制で運休日も増える。だが目的外利用はできないという壁がある。

 結局、役場に交通政策を総合的に担える組織と人材を配置するとともに、制度の壁の撤去を国に求めていくしかない。

 ただ、現状でも知恵は絞れる。広島、岡山、島根、鳥取四県十六市町村でつくる中国山地県境市町村連絡協議会(県境サミット)が二〇〇〇年十月から、役場の公用車を住民と共用する試みを進めている。

 公用車として電動座席付きの軽ワゴン車を買い入れ、閉庁日や空き時間に希望者へ貸し出す。レンタカー方式でガソリンの満タン返し、日割り保険料二百五十円を払うだけでいい。広島県東城町など六町が導入し、通院のほか、里帰りの息子や娘が老いた親との旅行などに使っている。「満タン方式」であれば有償のレンタカー事業にはならないというぎりぎりの選択である。

 社会福祉法人といえども、白ナンバー車で障害者やお年寄りを有償で運ぶことはできない。ところが自治体なら道路運送法八〇条のただし書きにある「公共の福祉」という目的に添えば許可される。自治体が許可を受けて社会福祉法人に委託する「金沢方式」は、そこをついた試みである。

 二〇〇一年四月現在、全国で八十八市町村、中国五県でも広島県熊野町を筆頭に三十三市町村が導入している。その普及ぶりは、それまで手詰まりのまま、生活交通の問題を棚上げしていた市町村の姿を浮き彫りにしてたともいえる。

 高度成長以来、国も地方も交通問題イコール道路整備ととらえてきた感は否めない。半面、ソフトの交通政策はおろそかになっていた。運送事業の規制緩和で今後、路線バス網の縮小は避けられないだけに、問題は深刻だ。

 そこで、生活交通を支えるバスやタクシーなどの乗り物を「動く公共施設」とみなしたらどうか―と、広島文教女子大の菅井直也教授(地域福祉)は投げかける。

 「億単位の交流施設を建てても利用されず、高額の維持管理費を垂れ流すぐらいなら、利用者の多いバス路線を組んだ方がよほど住民が喜ぶ。少ない投資で住民サービスを競う、知恵比べの時代なんですから」

 「路線を残せ」というだけでは、もう生活交通問題に対応できない時代に入ったことは確かである。

◆規制緩和とバス補助金◆

 赤字線廃止増える恐れ

 今月一日の改正道路運送法でバス、タクシー事業への参入(退出)が自由になり、中山間地域に多い赤字路線が廃止される恐れがより強くなってきた。

 赤字路線を支えてきたのは運行補助金。二〇〇一年度、中国五県で計百八十五路線、総額十二億七千三百万円(国と県が半額ずつ)に上る。過疎地を多く抱える中国地方は全国ブロックの中でも補助額はトップクラスが続いてきた。

 国は二〇〇一年度から補助制度を見直し、補助対象を従来の事業者から路線ごとに転換した。「広域的・幹線的」な路線を国が支援し、枝線など生活交通の路線は自治体がより主体的にかかわる枠組みに変えた。

 中国運輸局自動車部は「今後、新しい補助要件を念頭にバス路線の再編が出てくるだろう。そうなれば、補助額も若干増えそう」と見込んでいる。


■老いてなお運転95歳現役

買い物のついでに世間話―。野坂さん(左)は95歳でなお達者なドライバーだ(島根県大和村)
 農村部は今や免許取得者の大半が車を所有する時代。一家に三台、四台というのも珍しくない。公共輸送機関の不備がそれに拍車をかける。お年寄りとて例外ではない。

 島根県大和村の野坂等さんは九十五歳でなお現役。一週間おきに軽自動車で八キロ離れた隣町の赤来町診療所に通う。お年寄りのための運転ボランティアも三十年以上務める。

 ただ二年前に緑内障の手術を受け、遠出は控えている。「車がないと、ここらの年寄りは生活できゃあしません。この先、乗れんようになったら…」と不安ものぞく。

 島根県内の七十五歳以上の免許保有者は昨年十二月現在、一万七千三百人で92%が男性。これからは女性も合わせ高齢ドライバーは間違いなく増える。運転に伴う事故の増加が懸念されてる。

 七十五歳以上を対象にした免許更新時の高齢者講習も、今年六月から七十歳以上に引き下げられる。免許の自主返納制度もある。だが大和村など邑智郡七町村を管轄する川本署では返納はこの一年で一件。河瀬友治交通課長は「マイカーに頼らざるをえないこの地域で、乗るなというのは無理な話なんですねえ」と実感している。


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