広島県総領町教育長
和田 芳治(58) |
 |
●モノと仕事創り出す●
日本の農山村が過疎になったのは、農村を切り捨てたせいという 言い方があるが、親たちが田舎で生きることのしんどさから「こう
いう人生は面白うない。だからわしのようになるな」と自己否定型 の教育をやってきたせいではないか。
都市的集積や、経済が活性化していなきゃダメと勝手な物差し で、いい大学に行って、いい会社に入ることを勧め、子どもたちを
努力に努力を重ねてふるさとを捨てさせる教育を進めてきた。
これまではサラリーマンになる教育だったが、これから田舎で生 きようとすると、モノを創(つく)り出す、仕事をも創り出す教育
が必要ではないか。「自分とふるさとを誇り、仕事をも創る人間づ くり」を総領の教育のテーマに掲げたのはこうした考えからだ。
総領の教育は、子どもを総領にとどめて海外へ雄飛することや都 会へ出ることをすぼめ、可能性の芽を摘むという批判があるけど、
そうじゃない。創造性を伸ばす教育をきっちりやれば、どこへ出て も輝ける。
過疎地のことを今では、多自然型居住空間とかいう。芸術家や職 人、無農薬栽培などに取り組む主体的な人たちにとって、田舎がえ
えという流れが出てきた。
自然の中で自分のやりたいことをやって食っていくという教育 に、田舎や中国山地はこだわった方がいいんじゃないか。「農場持
ちアーティスト」になりたいという願いの方が、高級官僚になりた いとか大企業に勤めたいと思うより、子どもたちに元気を与えるは
ず。
資源の持続可能な活用とか循環型社会はどこにモデルがあるの か。私たちが住む中国山地にある里山と、里山文化がまさにそれだ
った。
草を刈ることで里山は美しさを保ち、セツブンソウ、カタクリな どが守られる。人手が加わることによって生まれた自然。里山は人
間と自然が共存する理想の場所だ。
ただ里山での生き方のノウハウを、教育はこれまで奪ってきた。 川遊びなどの禁止である。「川ガキ」は今や絶滅危惧(きぐ)種に
なった。
連休明けに中学校で校長が「おい、家の田植えは済んだか」と農 家の生徒たちに聞いたところ「知らん」と答えたという。私たちが
中学生のころ、田植えは農家の最大イベントだった。今の親はわが 子に農作業の手伝いもさせない。
また、学校統合が進んでスクールバスの運行が、児童の家の近く まで延びている。百メートルも歩かない子が増えている。帰宅した
らすぐテレビゲーム。道草も食わない。田舎だから子どもたちは自 然にかかわっているというのは大間違いだ。
|
前広島県口和中校長
戸井 妙子(60) |
 |
●心に刻む農林業体験●
中国山地の学校のよさは、地域体験学習の機会が豊富に持てるこ とだろう。たくさんの素材があるので、何をやっても、どんなテー
マをもってしても、いろんな展開の可能性がある。
中国山地にははぐくまれてきた歴史や文化がある。そして産業、 環境、福祉などさまざまな分野で生活する人たちがいる。その中に
は経験豊かでパワーある高齢者も多い。
こうした「地域の教育力」を活用し、地域について学ぶ体験学習 は、中国山地のほとんどの学校に広まっている。だが、ここで強調
したいのは、あくまでも農畜産業や林業にこだわった体験学習で す。
農林業をめぐる厳しい状況が続いている。そんな中での体験につ いて、「子どもが余計農業を嫌いになる」「逆効果なのでは」と心
配する声がある。「一日、二日程度の体験で何が分かるのか」とい った指摘ももっともとはいえる。
だが、農林業はこの地域で今なお重要な産業で、わたしたちが生 きていく上に大切な命あるものを育てている。その意味から、私が
六年間校長を務め、先月末退職した口和中でも、農林業にこだわっ た「職場体験学習」を一九九九年から始めた。
子どもたちは体験先で元気いっぱい、夫婦仲良く、あるいは子育 てしながらラクにない農林業に頑張っている地域の人と出会う。自
分自身の汗まみれの作業体験を通じて「すごいなあ」と素直に感動 している。
将来、子どもたちが進学や就職で古里を離れても、「ここで育っ てよかった」と、地域の人との出会い体験をしっかり心に刻んでお
れば、その子はどこにいても古里を捨てることはないだろう。
過疎地の小規模校では、家族以外の地域の大人たちもしっかり見 守ってくれる。保護者のほとんどが子どもたちの顔見知りだ。「わ
が子と同じように、よその子もしかる」。そうした環境で教育を進 められるというのは、実に安定感がある。
「口和の皆があなたたちを応援しているんよ」。口和中では毎 年、こう言って卒業生を送り出している。例年、卒業生には、地域
体験学習やスポーツ関係の指導などでお世話になった人の名前を挙 げさせ、来賓リストに加えている。二十五人が巣立った先だっての
卒業式には、この小さな学校に四十人もの来賓を招いた。
子どもたちの姿が地域で常に見える。体験学習も、そんな安心感 から農家などに引き受けてもらえる。地域の人たちと呼吸がぴたっ
と合う。それも小規模校のよさといえるだろう。
|