第 4 部  農 か が や い て (1)
2002.5.3
中国山地
産直市  豊かな田舎おすそ分け 

 下松市の河村浩照さん(77)とミサヲさん(77)夫婦は毎月、島根県津和野町の太鼓谷稲成にもうでる途中、道草をする。山口県鹿野町で国道315号沿いの産直市「大潮田舎の店」に立ち寄るのだ。

「農家が食べているのだから安心」と、にぎわう産直市「大潮田舎の店」。常連客も多い

 軒先で、浩照さんは山野草の鉢をのぞく。「一度ね、リンドウが無いかと聞いたら、来週おいでって。行くと、自宅の庭で花を摘んで待っててくれましてねえ」

 朝採りの野菜や地元産大豆の豆腐を買い込んだミサヲさんが「真心商売だから、ここは安心。それに比べ牛肉や鶏肉のウソ表示とか、最近多いでしょ。もうイヤ」と首を横に振る。

 「田舎の店」は一九八九年夏、テント市で始まった。鹿野町を縫う中国自動車道(八三年)と国道バイパス(八六年)が開通し、大潮地区を通る車も増えていた。「排気ガスを落とされるだけじゃ、もったいない」。声を上げたのは、兼業化が進む一帯で、自家菜園を世話する農家の女性や高齢者だった。

 「普段食べてる減農薬の野菜や米の余りを出そうと。おすそ分け、ですいね」。言いだしっぺの石川俊子さん(59)は、自ら感じている田舎暮らしの豊かさを店名に込めた。

 鹿野町は下流の岩国市で錦帯橋をくぐる錦川の源流域である。特産のワサビに加え、寒暖差で甘みを増す野菜や米が棚に並ぶ。山菜、山野草も定番だ。注文で作るむしろまで置く店内は、地域の食卓から風土までを映し出す。

 店の出荷会員はほとんど女性で約五十人。高齢者が八割を超す。金、土、日曜日に開店し、旬の露地物を出す。端境期の冬場は店を休む。それでも売上額は年に七百万円。一人当たりの収入は多い人で二十―三十万円。耕作意欲も高まり、作付けを広げ、小型耕うん機を買う人も目立つ。

 石川滋子さん(78)がミニバイクを達者に運転してやってきた。この日は趣味で育てた山野草の苗を五鉢と、二握りほどのニラを十束。ニラは一束五十円だ。荷を並べたら店番に回る。「取れ過ぎた野菜を前は畑に捨てよった。自分のが売れりゃあうれしいし、にぎやかな市に居るだけでも気晴らしですいね」

 四月からは、野菜や豆腐の出前販売も始めた。百十軒ほどの地区内に一人暮らしの家が約三十軒もある。高齢化率も五割近い。交通手段がなく、買い物に困っていた高齢者の家々を回る。配送には、地域おこしグループ「潮路会」の男性陣が力を貸してくれる。

 店が繁盛したおかげでテント市は間もなく丸木小屋に昇格。さらに今春、改築して一回り大きくなった。実績が買われ町や国の補助金が付いたのだ。豆腐やもちの製造機器、公衆トイレも備わり、しゃれたミニ道の駅といった風情である。「田舎風を忘れんようにしようね」。運営メンバーには立派すぎる店舗に、いささか戸惑いもあるようだ。



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