第 4 部  農 か が や い て (9)
2002.5.16
中国山地
小農複合経営  里山の恵みを循環利用 

 「おった。この虫よ」。野菜ハウスで伊勢村文英さん(55)が、枯れ草の下から体長五ミリのカメムシの仲間を捕まえ、近所のいとこ(48)に手渡した。イチゴのアブラムシ被害に手を焼いていたが、伊勢村さんに「アブラムシをよう食う天敵がおる」と聞いて、分けてもらうためやって来たのだ。

 広島県神石町相渡、名付けて「こだわり農場」のあるじ、伊勢村さんは無農薬・無化学肥料による有機栽培をもう二十六年続ける。天敵利用はその実践から得た知恵である。

ハウスで天敵の虫を探す伊勢村さん(右)。多様な野菜の「混植」と天敵の利用が無農薬栽培の知恵だ

 「虫に害虫も益虫もない。益虫も、えさの害虫におってもらわんと困るんじゃから」。虫一つとっても互いが連関し合う。だから農業は「命を生かし合うもの」という。

 一つのうねで二、三品目を同時に育てる「混植」も「命を生かし合う」知恵の一つ。涼しい葉陰を好むニンジンは小松菜の陰で育つ。葉物類はソバと一緒に種をまけば虫食い被害がない。昔からの言い伝えを忠実に守ってきた。野菜だけで七十品目も育てる。

 畑六十アール、水田六十アール、山林八ヘクタールと繁殖・肥育の和牛五頭―。かつてよく見られた、いわば「有畜小農複合経営」だ。そのよりどころが、家と田畑を取り囲む里山の山林資源の循環利用である。

 ササやシバは牛舎の敷草に、牛ふんと混ぜてたい肥に。落ち葉も田畑にすき込めば有機質肥料となる。「昔話の『おじいさんは山へシバ刈りに行きました』。あれをやってるだけ」。道やあぜの草も「牛のえさにする立派な資源。そう思えば草刈りも手間だが苦でなくなる」と笑う。

 会社員の長男(26)が一歳の時、畑ではいはいして土をなめるのを見て、「命を育てる土をこれ以上汚せない」と決意したという。

 一九七六年、設立されたばかりの無農薬栽培を目指す生産者と消費者の組織「福山わかつちの会」(福山市、二百人)に入会。葉タバコを野菜に一挙に切り替えて、無農薬栽培への道を歩み始めた。

 だが、甘くはなかった。最初二年間はさんざんの出来。三、四年目からやっと収量が上がりだした。収入のダウンは今より頭数が多かった和牛販売でしのぐ。六年目からは収量が安定してきた。

 農作物のほか、こんにゃく、はったい粉などの加工品も作る。産物の六割をわかつちの会へ、残りは個人の宅配や農協直売所などに回す。

 年間販売額は約四百万円。機械投資が小さく、農薬、肥料、えさ代がゼロのため手取りは八割と高率だ。労働力は妻敬子さん(50)、父武司さん(80)、母玉枝さん(75)、長男と女性研修生(18)。

 里山の体験を都会の人にも―と今春、「山の学校」を開校した。樹上ハウスや休憩所も整備。「まずい野菜しか知らない子供たちに昔の本物を味わわせてやりたい」。十八日に三回目を開く。


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