中国山地 明日へのシナリオ 第5部「森と里と人と」を終えて(下)
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2002.7.9
 外材に押され続けてきた国産材。その構造的な需要不振が林業の低迷につながっている。とはいえ需要の二割はまだ国産材。その割合(自給率)を少しでも上げよう、という新たな試みも始まっている。間伐の省力化を狙った新手法と、間伐材の需要創出。さらには木材の販売拡大に向けた新技術の導入…。中国山地の木材生産・流通の現場にその動きを追った。
(中国山地取材班)

列状間伐 低コストで材を搬出 木を選ばず最大5割


列状間伐でトラ刈りのようになった山。作業効率は大幅に高まった(99年5月、庄原市峰田町)

 杉やヒノキの人工林を材木として使えるまで育てるには、植林後十五―四十年の間に、間引きに当たる間伐が適切に行われる必要がある。だが、間伐材の相場が低迷しているため、手間をかける林業家は少ない。

 そこで間伐の省力化を図る「列状間伐」という方法が注目され始めている。間伐をする場合、どの木を切り、どれを残すかの選択が難しいといわれるが、そんなことはお構いなく一列全部を切ってしまうのである。

 木の並びに合わせ、二列残して一列切る「二残一伐」、二列残して二列切る「二残二伐」、一列残して一列切る「一残一伐」などの方式がある。通常の間伐率は二割くらいだが、列状では三割、五割となる。

 広島県立林業技術センターの時光博史研究員は「ワイヤーが張りやすく、間伐材の搬出が容易になるので作業効率がいい」とメリットを説明する。切り倒す木が隣の木に寄りかかる「かかり木」も少なく、作業の安全性も高いという。

 庄原市峰田町の林業家中原信義さん(70)は一九九四年から七年間、隣家の山と合わせて二十ヘクタールで杉、ヒノキの四十年生を対象に列状間伐を実施した。谷から尾根にかけて走る筋模様が、まるで「トラ刈り」されたかのように見える。

 急しゅんな山なので、通常の間伐方法では業者も引き受けてくれない。思案していたところ、逆に業者が提案したのが「筋切り」。後で列状間伐という名を知った。作業効率が上がる一方、間伐材の搬出量も増える。一本一本は安くても、全体の販売額では作業料を賄えるようになった。

 山口県福栄村で間伐を専門に請け負っている林業グループ「オレンジウッド」は、列状間伐を始めて十年になる。代表の上村忠さん(54)以外の三人の仲間は女性。機械による作業効率を追求するしかなく、行き着いたのが列状間伐だった。

 「うんと切った方が、その後二十年間はやらなくて済む」と間伐率50%の「一残一伐」方式を取る。「半分も切るのか」と最初は、山主に納得してもらうのに苦労したが、今では年間二ヘクタールペースで引き受けている。

 オレンジウッドの実績を見た山口県は「低コスト林業に道を開く」と昨年度から、「列状間伐の勧め」という冊子を作って、普及に乗り出した。

 列状間伐は、長野県伊那市で「KOA森林塾」を主宰している島崎洋路さんが、信州大教授時代の一九七九年、北海道庁からカラマツ造林地の間伐設計を依頼され、初めて提案したという。

 その後、試験的に取り組む動きもぽつぽつあったが、「切り過ぎだ」「土地の有効利用にならない」といった批判が相次いだ。また国も通常の間伐方式しか補助対象に認めなかったため列状間伐は普及しなかった。

 しかし、その後も間伐は思うように進まず、手入れ不足の人工林が年々増加するばかりだった。そこで通常の方式より低コストで、山主にも収入がある列状間伐が近年、あらためてクローズアップされてきたわけだ。

 中国地方では現在、広島、岡山などの林業技術センターが、作業効率やコストなどを調べたり、実験林で追跡調査をしている。

 一本一本、木を選んでやる間伐に慣れた林業家。時光研究員は「列状間伐が普及するためには、林業家の頭の切り替えも必要になるだろう」とみている。


 ▼自給率20%、不振続く 安さ・品質外材に押され

 一九六〇年代、広葉樹林を伐採して杉、ヒノキを植える拡大造林が盛んに行われた。高度成長期、建築需要が追い風となって、燃料革命や化学肥料の登場で利用されなくなった里山の薪炭林や雑木林が、針葉樹林に次々転換していった。

 その人工林は現在、全国の森林面積の約四割、一千万ヘクタールを超すまでになった。多くは間伐が必要な年齢になったか、あるいは過ぎてしまった。

 木は植えた後、苗木の周囲の草を刈る下刈り、植林した木以外を切る除伐、込み合った木を間引いて成長を助ける間伐―と、伐採までに適正な手入れが欠かせない。

 間伐材は、かつて足場丸太や杭(くい)材に使われ、山主の収入になった。だがプラスチック製品などに次第に取って代わられていった。価格が落ち込んだ今、間伐材は林内に放置され、間伐すらしない人工林が増えている。

 広島県の人工林十七万ヘクタールのうち、最初の保育間伐の目安となる十五年生以上の木は八割を占めるが、実際に実施されたのは半分に過ぎない。

 密植状態で木がひょろ長い、いわゆる線香林は風雪害を受けやすく、保水力も低下した不健全な森になる。このまま森が荒廃していけば、森林の持つ多面的な役割にも支障が出るだろう。

 六一年の木材輸入自由化以降、国産材のシェアは年々低下し、六〇年に87%あった自給率は今では20%程度に落ち込んでいる。「外材の安さに負けた」といわれる国産材だが、それ以上に木材の乾燥度の高さ、量のまとまりや品ぞろえのよさなどで太刀打ちできなかったのが要因とみられる。

 このため国は、林業振興の方向として(1)品質・性能が明確な乾燥材供給体制の整備や高次加工の推進(2)生産・流通・加工の関係者の連携強化(3)木材流通の効率化や情報化―を掲げている。

間伐材の需要創出 土木工事の利用促す 道路ののり枠や山留め

間伐材の「のり枠」を使って補強された県道ののり面。1年たち草が成長し、枠はうっすらとしか見えなくなった(広島県戸河内町横川)

 間伐を進めるには、間伐材が売れて山にカネが落ちる仕組みが必要だろう。広島県戸河内町の土建業、河本組は「山で取れたもんは山に返してやる。それが環境にもいい」という発想で、間伐材の土木工事への利用に力を入れている。

 社長の河本紀六さん(60)は「うちは西中国山地での仕事が多いから、自然の景観にマッチし、自然に優しい木を生かした工事を追求してきた」と説明する。

 道路ののり面を保護する木製のり枠は十年前、独自に考案した。長さ一・二メートルの杉丸太を金具でひし形のネット状に次々つなぎ、のり面に張り巡らす。特許を取得した主力商品である。

 一般ののり面工事では、まだコンクリート製の枠の使用が普通。だが、広島県の農林関係工事については、標準仕様になってきた。  河本さんによると、木製の強度はコンクリート並み。施工の手間もかからず、コスト面でひけを取らない。のり面が安定したころには腐って土に返る、という。

 また、杉丸太を三角状に組み合わせた「ウッドテトラ」も、県立林業技術センターと共同開発した。土石流などを防ぐ山留めの構築物だ。林道を横切る溝にかぶせるヒノキ製のグレーチング(ふた)も開発した。

 間伐材を製材・加工する木工部も持っている。今では売上高六億円のうち一億円が間伐材関連である。

岡山県真庭郡にみる 乾燥機導入 木材強く 厳しい品質要求に対応

 「はい、これは四千円から。四千、四千、四千…」。柱材を竹ザシでたたきながら、競り子が早口でまくし立てる。買い方は地元を中心に鳥取、島根の材木店主や工務店主ら約四十人。反応はどうも鈍い。

毎週水曜に開かれる勝山木材市場の市売り。真庭地区の製材業者が柱、板などを製材品を競りに出す(勝山町)

 岡山県勝山町の勝山木材市場が、毎週水曜に開く製材品の市場。真庭地区の製材所から出荷された柱や板、造作材が規格や等級ごとに並ぶ一・三ヘクタールの広大な売り場は、このところ元気がない。

 やっと一人が手を挙げた。ほかに買い手はない。値を競り上げる間もなく、売買成立である。次の製品コーナーの柱材には手は挙がらず、すぐまた次のコーナーに皆で移動していった。

 国産材の構造的な需要不振に加えて、九七年四月に消費税が5%へ引き上げられる前の駆け込み需要の反動減。その後の長期不況…。同社の二〇〇一年度の取扱量は三万四千立方メートル、売上高二十億五千万円。この五年間で量は39%、売り上げは55%と大幅に落ち込んだ。

 下山太朗常務は「とにかく品の動きが悪い。だが、それ以上に製品による価格格差が広がってきている」と指摘する。天然乾燥しただけの製品に比べ、人工乾燥した乾燥材の方が、好まれる傾向が年々、はっきりしてきたという。

 乾燥材は強度が増し、施工後のゆがみやひび割れがないのが特徴。外材ではもう乾燥材としての出荷が常識になっている。西日本最大の国産材産地である真庭地区でもようやく、その対応が始まってきた。

 真庭地区には真庭木材市売(久世町)と県森連勝山木材共販所(勝山町)の二つの原木市場の立地を受けて、勝山、久世、落合の三町に製材業三十三社が集中する。

 その三十三社でつくる真庭郡木材事業協同組合は今夏、中型乾燥機七台を購入し、リース方式で貸し出す。費用二億円のうち国と町が五割を補助する。

 乾燥機は大手を中心に半数は既に導入しているが、中小業者はまだ手付かずだった。産地としては、これで乾燥材の割合が現在の二割から五割へアップする。

 九五年一月の阪神大震災以後、住宅の耐震性など品質への要求が高まるとともに、二〇〇〇年四月の「住宅品質確保法」の施行で、製材品への品質要求も一段と厳しくなってきた。国産材でも強度や寸法精度に優れた乾燥材が住宅メーカーや工務店から求められはじめたにもかかわらず、これまで対応できていなかったのだ。

 組合の堀清専務理事は「やっと良質な乾燥材を安定供給できる体制が整います」と喜ぶ。今後は全社への導入をめざす。

 「地元の木をもっと使ってもらおう」と、生産から流通までの関連業者で組織する真庭地区木材組合は九八年度から、地元材使用の木造住宅「みまさか木の家」事業に取り組んでいる。

 工務店十五社が参加。年十軒のペースで受注している。「最近は、特に健康志向の消費者に人気がある。都市の人に地元材を使った家を建ててもらえば、山も元気になります」。井原敬典専務理事は手応えを感じている。


 ▽木くず燃料に工場発電

 「木質資源循環型産業クラスター」構想にも盛り込まれているバイオマス発電。その先進例として知られるのは、地元勝山町の集成材メーカー、銘建工業の「エコ発電所」だ。

かんなくずを燃料に熱と電気をつくる「エコ発電所」のボイラー設備(勝山町の銘建工業)

 製造工程で出るかんなくずを燃やしてボイラーを加熱。蒸気タービンで発電機を回す。出力千九百五十キロワット。工場のモーターの動力や事務所の電灯などに使っている。九八年一月に稼働した。

 「廃棄物を出して社会に負荷をかける企業は、二十一世紀に生き残れないと導入を決めた」と中島浩一郎専務。投資に約十億円かかったが、電気代だけで年間六、七千万円を節約している。

 余剰電力の販売は、価格面で中国電力と折り合わず、今のところは自家消費にとどめている。

 熱は最初、木材乾燥に利用していたが、欧州からの板材が乾燥材で輸入されるようになったため必要なくなった。今は新築の町営住宅への給湯、町営プールの温水利用などを町と検討している。


 ■廃棄物で新産業構想 自然プラスチック有望

 製材過程で大量に出るおがくずや樹皮、端材などの廃棄物。製材業者にとっては焼却コストのかかる厄介ものだ。真庭地区で今、その廃棄物を再資源化し、新産業の創出をめざす「木質資源循環型産業クラスター」構想が、具体化に向けて動き出した。

 マテリアル(肥料・飼料など)からサーマル(熱・電気など)の原料・燃料まで、取り出せるものは何でも取り出して利用する。ゼロ・エミッション(廃棄物ゼロ)をにらんだプロジェクトだ。

 構想は中国産業活性化センターが昨年度に実施した真庭地域振興計画の調査研究としてまとめた。勝山、久世、落合三町と地元の製材・木材加工業者、岡山県、中国経済産業局、岡山大など産官学のメンバーによる委員会が審議に加わった。

 構想名は、産官学がブドウの房(クラスター)のように寄り集まって連携するとの意味である。

 有望視されているのが、木材の二大成分であるリグニンとセルロースから生成するさまざま化合物である。セルロースはブドウ糖などに転換して食品工業に生かせる。リグニンからは土に埋めると分解する生分解プラスチックも作れる。

 木、草、竹などの微粉砕物とでんぷんとのプレス成型で作られる新製品「ナプラス」も、自然プラスチックの一つで、リサイクル可能な製品になる。

 本年度は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助を受けて事業化可能調査を行う。構想推進母体には、九月にNPO法人化する真庭地区の若手経営者の集まり「21世紀真庭塾」を予定している。

 構想推進の調整役を務める久世町企画課の仁枝章課長は「切り捨てられている間伐材も利用すれば、地域の林業再生につながる」と期待する。