中国山地 明日へのシナリオ 第5部「森と里と人と」を終えて(上)
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2002.7.8
 かつて生業(なりわい)の場だった森や里山に、遊びや学び、癒やしの場を見いだしている人々を連載で取り上げた。どれも「こうすれば山は立ち直る」という確信があるわけではない。「面白いから、手弁当でも山に集まる」という感動が支えである。都市の力も借りて森の息吹を取り戻すには、心を動かす体験や交流の芽を地道に育てる努力を積み重ねるしかない。
(中国山地取材班)
広島県吉和村の十方山上空から広島市方面と広島湾(上方)を望む。上流と下流は太田川でつながる。中央は立岩ダム湖、左上は戸河内インター付近

 都市・山村 支え合おう 顔見える交流から

 かつて、飲み水や土、木材、農産物などの恵みは上流から運ばれ、都市生活を潤してきた。農山村と都市は川の流域でつながる関係にたとえられるだろう。その流域住民のパートナーシップ(支え合い)こそ、森の再生に今ぜひとも必要なのである。

 広島市を中心に環境問題に関心を持つ有志でつくる「環・太田川」編集委員会が昨年五月、広島市で月刊の情報誌「環・太田川」を創刊した。広島県西部を縫う太田川は、県民の半分を超す百八十万人の水源だ。同誌には毎号、流域のお年寄りからの丹念な聞き書きや山村のルポが載る。

 編集委員の農業ジャーナリスト篠原一郎さん(67)=安佐北区=は「蛇口の向こうに、水源の森が思い浮かぶ都市生活者を増やしたい。命の水を日々流してくれる中国山地の自然や川の歴史、山村の姿を伝え続けたい」と話す。

 連載で紹介した鳥取県の日本酒ファン組織「杉の雫(しずく)・吟醸の会」は好物の酒をよすがに、流域交流を深めていた。源流部の智頭町に育て始めた「雫の森」には、花見酒を目当てに会員が育林に通うよう、四季折々に花が咲く苗木を選んだ。落ち葉たきで熱かんを味わうのが皆の夢だ。

 雫の森は十五アール。水源を守る理念からすれば心もとない広さだが、「どんな大河だって源流の一滴から始まるんですから」と会長の尾崎繁・鳥取大名誉教授(69)は笑顔で、動じない。

 「越境」は苦手な自治体も、やる気次第で流域交流の仕掛け役になれる。岡山県西部を潤す高梁川では、下流の人口約五千五百人の清音村が二〇〇〇年冬、源流部の人口約四千人の大佐町に保養所「源流の家」を建てた。

 「文明で見失ったものを見つめ直そう」と説いた江口猛前村長(故人)の思いを映し、いろりを切り、風呂もまきでたく。大佐町へ保養やスキー教室に行く村民に活動費の半額を助成し、交流を促している。

 中国山地と瀬戸内沿岸の自治体やグループが結んでいる友好縁組は少なくない。海を育てる源流の森の手入れに、島根県温泉津町漁協の漁民がボランティアで参加する「海山交流」のような条件は整っているのだ。要は、おざなりの相互訪問ではなく、山村支援の意義を相互に理解するかどうかだろう。

 流域と暮らしがもっと身近だった昔を見つめ直す。それが流域意識を呼び覚ます原点になる。上流の木を使う家造りの運動も、そうだ。かつて材木をいかだ流しで運んだ流域の再発見だった。二、三百本の木を使う家そのものが、炭素を長く閉じ込め地球温暖化を防ぐ、小さな森づくりなのだ。

 木の家造りのネットワークは中国五県に広がっている。鳥取県は今年、伐採地まで分かる全国初の産地証明制度を創設。県産材を半分以上使えば六十万円を助成する事業も併せて導入した。受け付け初日で応募枠の五十戸を超す人気を集めている。

 太田川上流の広島県加計町は近く、オートキャンプ公園に木造で建てる宿舎を、下流の都市住民たちと共同で造る。月一回の連続講座の形式で半年間、地元の大工や林業家を交え、木の伐採や製材、いろり作りを体験してもらうという。

 流域のパートナーシップをはぐくむ体験や交流の下地は、顔と顔の見える付き合いから始まると言えそうだ。

◇中国5県の主な流域ネットワーク活動◇
    名称(事務局の所在地) 活動内容 事務局の連絡先
広島 (1) 「森のすまい場」づくりワークショップ
(加計町)
月1回、杉の泊ホビーフィールドで開講 加計町産業観光課
08262(2)1113
(2) 木の香る住宅工房
(広島市西区)
建築家や大工、林業家の木の家造り 現代計画研究所
082(230)5451
(3) ひろしま・県流域木材利用ネットワーク
(広島市中区)
太田川を中心に県産材での家造り ラーバン
082(291)1497
(4) 「環・太田川」編集委員会
(広島市西区)
月刊情報誌「環・太田川」を発行、1部300円 同委員会
082(278)1044
山口 (5) 近くの山の木で家をつくろう山口県協議会
(小郡町)
県内の工務店と森林組合の木の家造り 安成工務店
083(974)5700
岡山 (6) 住まいづくりの会
(岡山市)
県北ツアーで山や製材の現場を見学。
毎週土曜に無料相談会
新谷建築設計
086(244)2355
(7) 源流の家(大佐町) 清音村民は1泊200円 清音村総務課
0866(94)0111
島根 (8) 斐伊川流域環境ネットワーク斐伊川くらぶ
(松江市)
※NPO法人
ダム予定地の上流住民と交流、菜種油を
食用や燃料に使う実験など
同くらぶ
0852(20)0060
(9) 協同組合「出雲の木の家」
(出雲市)
地元の製材業者が連携し、木の家を共同で
提案・受注
同組合
0853(30)1188
鳥取 (10) 杉の雫・吟醸の会
(智頭町)
酒米の栽培や地酒列車運行 諏訪酒造
0858(75)0618
(11) 日野川源流の家
(日南町)
日南産の杉やヒノキでの家造り。8月に
源流ツアー
日南町森林組合
0859(82)0130

人、森に帰る

 森を見る市民の意識が変わってきた。環境教育や森林ボランティアで山に入る人が増え、森を生態系としてとらえる視点が広がってきたのである。里山をめぐる関心の高まりにも、そうした時代が反映されている。
 こうした流れを受けて政府は二〇〇一年六月、木材生産一辺倒だった林業政策を根元から見直す森林・林業基本法を制定した。森林のもつ多面的な公益機能が国民生活や経済安定に欠かせないとして、森林の整備・保全を図る方向を打ち出している。
 新法が掲げる森林の多面的機能は六つある。(1)国土の保全(土砂の流出・崩壊を防ぐ)(2)水源のかん養(3)自然環境の保全(4)公衆の保健(安らぎや憩い、教育の場)(5)地球温暖化の防止(二酸化炭素の吸収・貯蔵)(6)林産物の供給―である。
 こうした新たな役割を担う森林の姿をカメラで拾った。
源流域
気分一新
原木の蔵
多様ないのち
天然回廊