第 6 部  老 い を ゆ た か に (8)
2002.9.7
中国山地
やまびこネット  「隣の助け合い」現代版 

 「お父さん来たよ」。広島県口和町竹地谷の井上房憲さん(79)方には毎週火曜午後一時半ごろ、バイクで門野康江さん(54)が訪れる。

 まずは冷蔵庫を開け、腐ったり傷んだ食品をチェックする。この日は、目に付く材料でトマトのマヨネーズ焼き、ぬた、豚肉とピーマンのいため物などおかず五品を作り、居間と広間に掃除機をかけた。

個室暮らしでも食事は12人一緒。まかないは介護保険や家事援助サービスを利用している(広島県布野村のやすらぎリビング)

 「結構な時代になったよのう。昔は男ごけにはボロが下がる、言いよったが」と井上さん。「男ごけにも花が咲くことがあるんよ」とすかさず門野さんが返す。

 門野さんにとっては休憩なし、立ち通しの二時間。その間に交わされるおしゃべりが、井上さんの何よりの楽しみである。

 口和町と比和、高野、君田、布野の五町村の社会福祉協議会が九八年十月、国の老人保健健康増進事業を導入して始めた家事援助サービス「やまびこネット」。門野さんは、そのお手伝いをする有償ボランティア、愛称「やまびこさん」である。

 井上さんは三年前に妻と母を相次ぎ亡くした。会社員の長男(51)は庄原へ早朝出勤し、帰りも遅い。そこでネットに夕食のおかず作りと、掃除、片付けを頼むようになった。

 ネットの対象は介護保険の対象外の「自立」のお年寄り。「ちょっとした困りごとを私たちがお手伝いします」をキャッチフレーズに家事全般から通院介助、役場の手続きや買い物の代行、話し相手、墓参りの同行などを幅広い支援をしている。

 利用者は各社協に希望日時とサービス内容を電話で申し込む。利用料は一時間二百円。一回の利用は二時間まで。やまびこさんへの報酬は一時間七百円。差額は県社協や町などが助成している。

 口和町社協事務局長の上田正之さん(48)は「昔なら困った時はお互いさまで隣近所が助けていたが、今は難しい。その精神を生かしたのがネット。多くの人の協力が支えです」と説明する。

 門野さんはやまびこ歴二年の主婦で、ホームヘルパー二級。介護保険の訪問介護にも週三日を充てている。子ども二人が巣立ったのを機に「私も主人もいつ誰のお世話になるかもしれない。できる時に」との思いで引き受けたという。

 口和町で登録している他の十三人も主婦でヘルパー資格を持ち、一人を除いて訪問介護と掛け持ちしている。やまびこさんは地域のお年寄り支援チームとも言える存在だ。

 昨年度のネットの利用者は四十四所帯。単発や井上さんのような継続の依頼を合わせて、利用は延べ百六十三件と年々増加している。

 もともと五町村社協が「連携してやろう」と始めたネット。機関紙の発行や精算業務などは共同化しているが、やまびこさんの派遣業務は各町村で完結している。

 ただ利用の伸び次第では、やまびこさん不足も起こり得る。「その時は、お互いの社協が融通し合えばいい。それが本来の趣旨です」。上田さんは広域連携に期待している。

(おわり)


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