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■最後のとりで 心のケア 職員ら奮闘 廿日市市の「光の園摂理の家」に体験入所した。初めて出会う 「おじさん」に園児は興味津々。入れ代わり立ち代わり、話しかけ たり、飛びついたりしてくれる。意外なほど、人懐っこい。ちょっ と、人気者になった気分だ。ミク(7qから、きつい一発をもらうま では…。
ギーコ、ギーコ。ミクは、手押し車に自分より年下の子を乗せ て、近づいてきた。グラウンドで、男子のサッカーを見物している 時だった。 「ねえ、(車を)押して。早くう」と粘り強く催促してきた。あ しらっていると、ミクの態度がひょう変した。「はよせえや。押し ゃあ、ええんよ」。見事な脅し口調。あっけにとられていると、す かさず第二波。「たばこ怖いけえ、こっち向けんなや」。その後も 言葉のミサイルが次々と飛んでくる。 ミクは、学校からの通報によって、親元から保護された。かつ て、親から浴びせられた言葉を、ぶつけているらしい。たばこに も、つらい経験があるのかもしれない。 べたべたとなついて来るかと思えば、「ちょっと待ってね」など と、要求を受け入れないと、一転、冷たい態度や攻撃にでる。保育 士によると、虐待を受けた子ども共通の特徴という。 夕食後、園舎内をぶらつく。近くのグループホームで暮らす五人 を除くと、二歳から十八歳までの五十八人が、ひと部屋二、三人で 暮らす。 「ゲームしよう」「うちの部屋へ来て」。次々と掛かる声に、懲 りもせず、気分がよくなる。 「おもしろいもの見せてあげる」。ヒトシ(10)に強引に手を引か れ、部屋へ誘い込まれた。ヒトシは楽しそうに、ロボット三体で、 人形遊びを始める。二体が男性、一体が女性の見立て。男性同士が ぶつかり合い、もつれ合う。ついに、一体が学習机のがけ下へ突き 落とされた。勝者は女性と結婚する筋立てだった。 その後の自習時間でも、翌日の昼食の時でも、ヒトシは、両手を 使った芝居を繰り返した。右手と左手が激しく戦い、最後は決まっ て、片方が「天国」へ上っていく。 保育士によると、こうした「死」を連想させる遊びは、ヒトシに 限らない。ミニカーを何度もぶつけたり、おばけのような絵をばら ばらに引きちぎったり。園児に、悪びれた様子はかけらもないが、 見ている側は、むしょうに心がざわついた。 小学生の高学年二人と風呂(ふろ)に入った。「わあ、毛じゃ 」。父親と同年代のはだかは珍しいのか、大はしゃぎだった。 午後十一時、子どもを寝かしつけた保育士と指導員が、事務室に 集まってくる。園児が学校に行っている間は休憩を取るとはいえ、 午前七時前からの長い勤務。指導員の一人は「やっても、やって も、心が通じない、というやるせなさと、結果はすぐにはでない、 という自らへの言い聞かせが半ばしますね。燃え尽きてしまいやす い職場だと思います」という。 興味を引きつけたいがための、しつような挑発や暴力、過剰なま とわりつき、悲しい作り話…。大人が神経をすり減らし、どれほど 愛情を注いでも、子どもたちの愛情への渇きは満たせない。 それでも、保育士の一人は「一日中、いがみあっていた子から寝 る間際に『ごめんね、ありがとう』って言われたりするのを励みに …」と、ぬいぐるみや靴下を繕っていた。今夜は、かつての虐待シ ーンを思い出し、声を殺して泣く子はいないだろうか。 (文中子どもの名前はは仮名です) ■心理専門家の導入 内面の悩み解くカギ 「好きな恐竜を置いていいよ」。光の園のカウンセリングルー ム。心理セラピストの平松利枝子さん(28)に促され、小学生が、砂 を入れた箱の中に、おもちゃを並べていく。箱庭療法と呼ばれる心 理療法の手法の一つだ。
平松さんは週四日、施設を訪れ、年齢に応じた心理療法に取り組 む。昨年度の園児五十九人のうち、三十四人に心理療法をした。カ ウンセリングルームで、幼児に帰る中学生がいる。お母さんごっこ で、赤ちゃんの人形を床にたたきつける幼児も。自らの将来像をど うしても描けないケースもある。これまでの歴史をさかのぼり、つ らさを聞いてもらえることで、癒やされていく。 光の園が心理の専門家を配置したのは一九九九年六月。この年か ら、被虐待児が十人以上いる施設に対して、非常勤のセラピストを 雇うための補助金が、国から受けられるようになった。現在、広島 県内で四施設がこの制度を利用している。 「施設は家庭、職員は親代わり」。戦災孤児の養育からスタート した多くの施設が、これまで培ってきた「生活のプロ」としてのノ ウハウだけでは、被虐待児の複雑な内面を理解しきれなくなってき ている。心理学は、その悩みを解く新しいカギ、として期待を集め ている。 しかし、セラピストをうまく使いこなせている施設は全国的に少 ない。光の園も当初は「園児が大きく動揺した」(田中輝義園長) と言う。相手をまず受け止めるスタンスをとるのが心理療法。結 果、子どもたちが、これまで心に抑え込んでいた衝動や怒り、愛情 への渇望などを、一気に行動として爆発させたからだ。窓ガラスの 破壊、けんか、無断外出、自殺未遂、園舎の放火…。トラブルが連 鎖反応する。職員はその後、本来の定員七十人を大きく減らし、一 年間にわたって混乱の収拾に追われた。 平松さんは「先進例の通りに、セラピストが生活の場にどっぷり 入るのは難しかった。現在は、職員との役割分担を心がけていま す」と話す。 生活と心理。ひとつの現場で、二つの専門職が力を発揮し合う方 法は、まだ見つかっていない。田中園長は「心理療法に加えて、子 どもへのかかわり方への助言や、指導員の心のケアなどをするコン サルテーション機能も担ってほしい」と期待している。
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