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断ち切れる暴力の連鎖
3.白球追い 戻った自尊心



 「もっと高く構えて。三振してもいいから、思い切って振れ」。 東広島市の広島新生学園。片翼八十メートルの野球場に、上栗哲男 園長の声が響く。白球を追う園児たちを、長い影が追っていた。

園児に体当たりの指導をする上栗園長

 スカイブルーのユニホームは、中国地方の施設の大会では常勝チ ームとして知られる。「自立の前にまず自律。そのために礼節、協 調性、順法精神を身に付けさせたい」と上栗園長。ルールを守り、 チームワークを重んずるお家芸は、その方針には格好の活動だ。

 学園では、男子は小学生がソフトボール部、学校のクラブ活動に 入っていない中学、高校生が軟式野球部に、女子はバレーボール部 に入る伝統になっている。練習は毎日、日暮れまで続く。軟式野球 部は、卒園生も交えて、草野球リーグにも加盟。警察署やタクシー 会社などのチームと月二回、週末に試合する。

 「職員より外部の人にほめてもらうことが、子どもの大きな自信 につながる」。虐待を受けた子どもの多くが、「自分が悪いから親 に怒られた」と思い込まされ、自尊心を奪われている。認められる ことは、将来社会へ巣立つうえで替え難い経験だという。

 学園では現在、七十四人の子どもが暮らしている。うち、身体的 虐待が原因で保護された園児は約三十人。食べ物を満足に与えなか ったり、ひどい言葉を浴びせられたりするネグレクト(養育拒否) を入れれば、ほとんどのケースが虐待だという。表向きには、夜間 はいかいや暴力、不純異性交遊など非行が目立つ園児の背景にも、 虐待の影は潜んでいる。

 しかし、学園内で育ち、父の後を継いだ二代目園長は希望を捨て ない。「野球に限らず、仲間にもまれ、励まし合い、競い合って育 つ集団の力はすごいものです。幼児期に愛情をもらえていない子で も、良き理解者があれば軌道修正は必ずできる」と信じる。

 それだけに、世間で安易に語られる「児童虐待は繰り返す」とい うお題目には納得できない。「無責任な烙印(らくいん)ですよ。 うちの卒園生で子どもを虐待しているケースはほとんどない」と訴 える。

  ■卒園生も家族連れで汗

 卒園生で、広島市南区の会社員(51)は、両親を亡くし、親類に預 けられた。唯一、はっきり覚えている当時の記憶といえば、卵かけ ご飯にまつわるものだ。みんなには卵があるのに自分にはなかっ た。今でいう心理的虐待を繰り返し受けた。他の思い出はつら過ぎ て胸の奥にしまい込んでしまった。

 養父母への反発から、「いたずら」がエスカレート。小学二年で 学園に預けられた。「学園の先生や友達のおかげで、大人への信頼 感を取り戻せた。虐待を繰り返すなんて夢にも考えられない」と言 い切る。三人の子どもを育て上げ、孫も四人いる。

 週末は長男と孫を連れて学園を訪れ、野球に汗を流す。「今度は 私たちが園児の良き理解者に」。そんな親子の姿に虐待の連鎖の姿 はかけらもない。

 「おはようとおやすみなさい、を言うおかあさんは一緒であるべ きだ」(上栗園長)。学園で園児に直接かかわる保育士たち職員十 八人は、一人を除いて全員住み込み勤務という従来からのスタイル をかたくなに守る。

 「こんなに愛しているんだ、と伝えたい。施設の努力で連鎖は断 てる」。それを証明するため、上栗園長は卒園生二千人を対象に追 跡調査を計画している。

虐待シェルターMenu Next Back