終章 特集
活用を考えるフォーラム 詳報 家族の愛情を形に
(2009年6月24日)
がんと闘う親子の心をつなぐ「サポートブック」の活用について意見を交わすフォーラムが21日、広島市中区の原爆資料館メモリアルホールであった。広島で誕生したブックを、親子の関係づくりにどう生かしていけるのか。制作者、使った人たち、支える人たちの声に約150人が聞き入った。広島県、広島市、NPO法人子どもコミュニティネットひろしま、中国新聞社などが主催した。(文・木ノ元陽子、平井敦子、新田葉子、写真・高橋洋史)
サポートブックに込めた思いを語る阿部さん(中)とふくださん(右)。左は聞き手の小笠原さん ※阿部まゆみ ふくだとしお 小笠原由季恵
制作者に聞く
絵本作家 ふくだとしおさん
名古屋大医学部特任講師 阿部まゆみさん
<聞き手>
NPO法人子どもコミュニティネットひろしま代表理事 小笠原由季恵さん
気持ち 少しでも軽く ふくださん
輪の中にこの1冊を 阿部さん
サポートブックのイラストを担当した絵本作家ふくだとしおさん(大阪府吹田市)と、緩和ケアの現場で家族支援の必要性を訴えてきた看護師で、名古屋大医学部特任講師の阿部まゆみさん(名古屋市)。制作チームの2人に、NPO法人子どもコミュニティネットひろしま代表理事の小笠原由季恵さんがブックに込めた願いや意図を聞いた。(文中敬称略)
―サポートブックはどのような背景から生まれたのですか。
阿部 看護師として、子どもをもつがん患者が亡くなる場に立ち会ってきた。こういう別れでいいのかと悩んでいるうち、英国で病気や日々の生活について子どもに書いて知らせる小冊子に出合った。持ち帰って訳し、医療従事者の意見を聞きながら、日本文化に合ったものにする必要を感じた。広島の関心のある人が集まってブックが誕生した。
―子育てなど多様な場面で活用できそうですね。
ふくだ (1歳の長女に)夫婦2人で書き込んでみた。普段思っていても、なかなか気持ちを文章にすることはない。本をきっかけに夫婦のきずなも深まった。子育てだけじゃなく、両親とも使ってみたい。もっといい関係になったり、ぎくしゃくしていた親子の関係が再構築されたり。いろんな場面で使えると強く思う。
―ブックの広がりに何を期待しますか。
阿部 親が書いてくれたブックは、子どもが成長する上での引き出しになる。さりげない家族の輪の中にこの1冊があって、後々思い出せるような本になっていけば。
ふくだ いろんな使われ方をして、新たな何かが生まれていく。多くの人の手に渡り、状況に合わせて活用してほしい。少しでも気持ちが軽くなったり、プラスになったりしてくれると信じている。

訪問看護ステーション所長 石口房子さん
シンポジウム
訪問看護ステーション所長 石口房子さん
生前の思いを伝えたい
末期がんで闘病中の若い親御さんが、小さいわが子に病気のことやもうすぐお別れが来ることを伝えるのは難しい。訪問看護の現場で、そう感じている。大切な短い時間。どうすれば親子が思いを伝え合ったり、愛情を形に残したりできるだろうか、と考えてきた。
お母さんをがんで亡くした小学6年の娘さんとサポートブックを埋めた。生前、お母さんが伝え切れなかった思い。「18歳になるまで生きててやりたい」という言葉を書いた。娘さんは「お母さん、こんなことを思っていたんだ。聞いて良かった」と喜んでくれた。
こういうものが欲しかった。在宅ホスピスの現場で使っていきたい。末期の方だけでなく、闘病の過程で疎遠になりがちな親と子の関係をぐっと縮めるよう、外来やがん診療連携拠点病院の相談室など、いろんな場で使ってもらえたらなと思う。

藤井知寿さん
サポートブックを使った2児の母親 藤井知寿さん
密着して少しずつ書く
4歳と2歳の男の子の母。毎日、保育所に預けて働いている。朝もバタバタ、帰ってからもバタバタ。月曜から金曜までゆっくり話をする時間もなく、早く早く、急げ急げという感じで毎日が過ぎていく。
「寂しい」と言われたことはないけれど、寂しい思いをさせているのではないかと心配だ。一緒にいる時間は短いが、いつもあなたたちのことを思っていることをつづっていきたい。息子たちと話をしながら書いている。暑くても密着してくっついて。いっぺんに埋めてはもったいないので、少しずつ書いている。
子どもたちとの時間は楽しく過ごしたい。お父さん、お母さんと一緒にいた時間は楽しかったということを、体で心で覚えていてほしい。この本の存在や意味を、息子たちも彼らなりに、少しずつ分かってくれたらいい。

ひろしまこども夢財団事務局長 棚多里美さん
ひろしまこども夢財団事務局長 棚多里美さん
育児の悩み 和らげる力
一人で悩みを抱える子育て中の母親は多く、育児の負担感が増している。そんな時代に、サポートブックは親子の心と心をつなぐもの、親子関係の見直しに使えるんじゃないかと直感した。
7500冊の増刷に協力し、5月から2500冊を配った。「ママ友と育児サークルで」「家族や孫のために」という声をはじめ、保育所や子育て支援センター、小学校、大学、産婦人科や小児科などから要望があった。育児休業を取る社員に配る企業もある。夢財団のネットワークのなかで、話をしながら手渡してきた。
そうした活動の中で、「忙しくて子どもとかかわれない」「子どもの愛し方がわからない」など、本当に深い悩みに接するようになった。それがサポートブックの力。ブックを通して、精神的な支援ができる気がしている。

広島市立中央図書館事業課長 藤井寿美枝さん
広島市立中央図書館事業課長 藤井寿美枝さん
愛されている実感わく
市立中央図書館(中区)でサポートブックの原画展を開いた。図書館にも多数の蔵書がある絵本作家、ふくだとしおさんの絵を紹介すると同時に、子育て支援の観点からブックを利用者に使ってほしいと思った。
ブックに書き込むときは必ず、親は子のことを思う。子どもは、子どもなりにお父さん、お母さんのことを考えて書く。書き込んだブックを読むと、自分が愛されているという実感がわく。そんな体験は、子どもの成長にとても大事だ。
子どもには、ブックの絵の力も大きい。どのページにも動物の親子の絵が描いてあり、見るだけでやさしい気持ちになれる。
今後は図書館のおはなし会や闘病記コーナーで、ブックを紹介できたらいいなと思っている。実際に使った人の実例に触れてもらう機会をつくることができたらすてきですね。

親子がつながるきっかけをサポートブックに見いだそうと、集まった来場者。会場からも活発な意見が出た
会場からの発言
助産師 川口一美さん(47)=広島市佐伯区 がんの宣告を受け、2年も生きられないと思っていた5年前。検査と治療は進むのに、心理的なフォローはなかった。当時サポートブックがあったら書いたと思う。逆に、症状が落ち着いた今はブックを見るだけでつらくて書けない。これを書こうと思うときには、真剣に利用したい。
会社員 反田富士男さん(51)=広島市佐伯区 いい本なので、もっと知ってほしい。広島にとどまらず、全国に伝えたい。精神的な支えになる素晴らしい本。
保育士 徳重百合江さん(44)=安芸高田市 6歳の息子が小児がんの治療を終えるころブックに出合った。自分が大きい病気になって、母親がたくさん泣き、父親が悲しい顔をしていたことに心を痛めていたようだ。退院してサポートブックを家族で書くとき、とてもうれしそうな顔をしていた。
長男の治療を支えてくれた3人の姉たちも1人ずつブックを書き、喜んでくれた。ブックに触れ、子ども4人が私たちの愛情を受け取ってくれていると思う。
美容学校教員 信野和美さん(34)=広島市西区 娘は昨年6月に超低出生体重児で生まれた。420グラムという小さな体だった。ブックは新生児集中治療室(NICU)の医師からいただき、少しずつ書き進めている。
ブックはこう使わなければいけないものではないと感じる。この子の生きた証しであり、親子をつなぐものであり、周りの人の支えを記すもの。この子が将来、いろんなことが分かるようになったとき、一緒に作り上げたい。
主婦 伊藤智子さん(45)=広島市安芸区 私自身が子育ての中で、子どもの思春期、反抗期に、手紙のやりとりという形で、直接言葉にできない気持ちを示した。このサポートブックを多くの人に伝えたい。

サポートブック
申し込み受け付け6月30日まで
サポートブック=写真=を使ってみたい人は、その理由と住所、名前、電話番号を明記し、報道部サポートブック係へ。supportbook@chugoku-np.co.jp 中国新聞社での申し込み受け付けは6月30日で終了します。7月からは、サポートブック作成プロジェクトチームのホームページ(http://www.support-book.com/)にお問い合わせください。


