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磯の香 がぶりほおばる
ノリ養殖の名残今に 広島湾のさわやかな風が、磯の香りを運んできた。ノリ養殖が盛 んだった広島市中区の江波地区。早春の日曜日にあった住民ふれあ いイベント「南の風EBAあそび」会場に懐かしいノリの香りが漂 った。 あぶったノリに、炊き立ての熱々ご飯を載せ、細かく切りしょう ゆで味付けした広島菜とかつおぶしを巻き込んだ「江波巻き」が振 る舞われていた。手際よく作るのは、山崎恵子さん(48)さんら地元 の女性たちだ。
「小さいころから、自分で作って食べてたんよ。親たちはみんな ノリ養殖で忙しくてね」と森本純子さん(48)。山崎さんも「どの家 にも手近にある材料で誰でも簡単に作れる、地の食材を生かしたま さに郷土料理。近ごろは知らない子どもたちが多くて残念」とい う。 「作るところから見てもらい、多くの人に知ってもらえればうれ しい」と、今年十一回目となるイベントで初めて実演することにな った。江波で生まれ育った白根敬子さん(55)は、作り立てをがぶり とほおばる子どもたちの姿に目を細める。 江波の地先の干潟でノリ養殖が始まったのは、江戸時代中期。明 治初期から曽祖父(そうそふ)がノリ養殖を営んでいた笹木実さん (75)=中区江波東二丁目=は「手すきの時代。ノリが破れたり、縮 んだりして商品にならないのを家庭でノリ巻きに使っていた。それ が江波巻きの始まり」という。妻の順子さん(66)は「夫は今でもご 飯にしょうゆをたらしたノリ巻きが好物。忘られんのでしょうね」 当時、十月下旬の採苗から、三月まで続く摘み取り作業はすべて 手作業だった。一枚も無駄にはできないとの思いが強かった。作業 は忙しく休む暇もない。ノリ巻きは簡単に作れるうえ、仕事の手を 止めることなく片手で食べることができた。もともと働く江波の人 たちの作業場の食事だった。各家庭でそれぞれの具材を入れ、オリ ジナリティーあふれるノリ巻きとして今に伝わる。 江波のノリは新鮮で色が濃く上質でかみ切れるほど柔らかい。み んな十一月下旬に出回る新ノリが待ちきれなかったという。そのノ リ養殖も一九六〇年代、相次ぐ河口の埋め立てなどでヒビ場がすっ かり姿を消した。 天日干しを手伝っていた植埜万寿美さん(69)=江波本町=は「作 業に追われゆっくり食卓を囲むことはできなかった。立ったまま食 べる簡素な味でした」と思い出す。ノリ養殖の歴史は閉じたものの 「江波巻き」は、磯の香りの思い出とともにしっかり地域の人たち に愛され、根付いている。 (中村昭子)
=おわり
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