夕焼けに染まる広島湾に、黒いシルエットが浮かぶ。カキいかだの上を占拠するカワウの群れだ。かつて日本では絶滅の危機にひんした。ところが放流魚なども貪欲に餌にして劇的に生息数を回復した。その生命力が瀬戸内海の漁業者には脅威に映る。
「5年ほど前から数が増えた。100メートル四方の海が真っ黒になる年もある。放流したメバルなどの稚魚に狙いを付けられてはやれん」。呉市音戸町の早瀬漁協組合長の古本正人さん(69)が警戒するのは旺盛な食欲。1日500グラムもの餌をむさぼる。
関西の繁殖地から中国地方に飛んできたカワウが当初、狙ったのは川魚。大量に放流されるアユは格好の標的だった。やがて川漁の不振とあいまって、ねぐらを広島湾の島に移した。呉市では昨夏、花火による追い払いを試みたが、目立った効果は挙がっていないという。
カワウは1970年代、コウノトリやトキと同じように激減した。護岸改修や毒性の強い農薬の影響とみられ、全国の生息数は約3千羽まで落ち込んだ。だが、強い農薬の使用が減り、養殖や放流で狙う魚が増えるとV字回復した。
餌場を選ばない大胆さ、集団で魚を追い込む賢さ、高い潜水能力を併せ持つカワウ。今や有害鳥獣だ。「環境の変化にうまく適応したため悪者になってしまった」。生態や対策に詳しい長岡技術科学大(新潟県長岡市)の助教山本麻希さん(40)は複雑な気持ちを漏らす。
「部分的に駆除をしても、群れが分散して生息地を広げるだけで効果は薄い。魚の隠れ場所を人為的に増やすなど、うまく折り合う状況を考えたい」と山本さん。たくましく生きる水中のハンターは、人と自然の間合いを計る写し鏡になっている。(写真・高橋洋史、文・衣川圭)
<カワウ> ウ科の水鳥で体長約80センチ。沿岸部から内陸の河川、湖まで幅広い水域で餌を捕る。水深10メートル以上は潜れる。ウミウが繁殖に断崖を使うのに対し、水辺近くの木などを利用する。1970年代初頭、集団営巣地が東京都、愛知、大分県の3カ所になったとの調査結果もある。90年代に激増。アユなど川魚の捕食被害が深刻化し、海の魚の被害も心配されている。江田島市などは捕獲対象にしている。
【写真説明】<上>夕焼けに染まった海面から飛び立つカワウ。低空飛行で宮島北側のねぐらに戻っていった(廿日市市)
<下>ねぐらの木々にとまるカワウ。ふんで枝が白くなっている







