闇の中を遊泳する白い物体―。その正体は国の名勝・錦帯橋の借景、岩国市横山の城山にすみ着いたムササビだった。初夏の出産シーズンを控えたペアが、標高約二百メートルにあるロープウエーの山頂駅に巣作りしている。 日が沈み、街の夜景が輝きを増した午後六時半ごろ、ようやくお目覚め。屋根と梁(はり)の間に掛けた巣を抜け出す。餌を食べるため、斜面の雑木林を目がけて相次いでジャンプ。体をいっぱいに広げると、しっぽを除き、体長は三〇〜四〇センチ。真っ白な腹を見せて飛び移る。 ロープウエーを管理する市観光課は「運行に支障はない」。小さな命の営みを見守っている。
【写真説明】夜景に向かい、滑空するムササビ。錦川にはライトアップされた錦帯橋が光る=4秒間露光、8分の1秒間隔でストロボを連続発光させ、1匹が飛行する姿を連続してとらえた
岩国市横山のロープウエー城山山頂駅にすみ着いたムササビのカップル。二月末、定期点検のために駅舎二階へ上がった市職員が、乗り場から地上約六メートルの天井裏に「新居」を見つけた。
ロープウエーの山頂駅。矢印が寝床
細かい木の皮を寄せ集め、駅舎の梁(はり)に縦長に張り付いた巣。長さは三十センチぐらい。乗り場からは見えにくい場所だ。反対側の梁にも、少量の木の皮が敷かれている。
巣穴からは小さな頭が見えた
昼間、二階へ上り、お宅拝見。巣穴からは、拳ぐらいの大きさの頭がのぞく。反対側の「寝床」には、丸まったムササビが一匹。予想より大きい。尾だけでも三〇センチ程度。体長も同じくらいありそうだ。 起床は日没後。一匹が暗闇に飛び出し、あっという間に林の中へ。数十分後、次の一匹が宙に舞った。餌は木の実や葉っぱ。カシやクスノキなど広葉常緑樹が茂った城山は、餌の宝庫だ。近くの岩国城の天守閣にも、巣が掛かっている。
梁の上から顔をのぞかせたムササビ。 この直後、暗闇に舞った
三十年以上、ロープウエーの運転、管理を続ける市観光課の佐々川良一さん(56)は「毎年、姿を見る。自然に囲まれ、雨風がしのげるから、すみ心地がいいんでしょうね」。出産は例年、五月中ごろから一カ月間。職員に見守られ、ムササビの子育てが始まる。 (写真・高橋洋史、文・田中美千子)