― 県の打算に批判の声 ― 「無駄な公共事業に代わる事業が無駄。本末転倒だ」。松江市議 の西村敏氏は、中海本庄工区の干拓中止を想定して市が作った地域 振興策を、こう指摘する。批判を強めるのは、工区中央を貫く「中 海横断道路」の計画だ。 ■10日で即席プラン 農水省の事業中止は避けられない、とみた島根県は、松江市と八 束郡八束町、同郡美保関町の地元三市町に七月末、干拓に代わる地 域振興策のとりまとめを打診した。いち早く反応したのが松江市。 道路建設、沿岸の一部埋め立て、堤防の開削など十四事業を県に提 出した。議会の承認も経ず、十日余りで作ったプランだった。 中海横断道路は工区に新しい堤防を築き、松江市と八束町の間に 四車線道路を通す。松浦正敬市長が「最も重視する」計画だ。しか し新たな堤防建設の事業費は約百億円。市と町の間には、すでに二 本の堤防道路がある。水質悪化も懸念される。 ■「取れるもの取れ」 「船に乗り遅れれば大変なことになる」(作野律雄・美保関町 長)。後れを取るまいと、全面干拓推進だった美保関町、八束町も 今月後半には方針を見直し、振興策を策定する。「取れるものは、 すべて取れ」と一斉に走り始めた。 中止の際まず問題となるのが、入植農家が負担する予定だった未 償還金七十七億円の処理や堤防道路の扱いなど後始末だ。自民党の 亀井静香政調会長は「国策だから地元に犠牲は強いられない」と配 慮を示す。同じ国営干拓で中止となり、未償還金十八億円を国と県 で折半した熊本県の洋角湾干拓の前例もある。 一方、「干拓中止の迷惑料」である地域振興策については一切、 枠組みがない。「農水省事業だから、同省中心にまとめてほしい」 と澄田信義知事はけん制するが、県幹部にも実現を疑問視する声が ある。 松江市の計画だけで事業費は四百億円。三市町の要望を合わせる と、総事業費は一千億円を超える見通し。本庄工区を全面干拓した 場合の追加事業費、五百二十億円の二倍である。 ■県東部重視に反発 振興策の実施には地元負担も必要で、県西部の県議らは「島根原 発の地域振興に続き、またも県東部に県財源が投下される」と厳し い目を向ける。 しかし澄田知事としては、事業凍結の姿勢を維持しながら、一つ でも多くの振興策実施の確約を国から引き出したい。「中止だけ決 まって玉砕なら責任を問われる」(県幹部)との打算からだ。 西村氏は「せっかく公共事業の転換のモデルを示そうというとき に、『代わりによこせ』などと密室の交渉をすべきでない」と批 判。谷洋一農相も「駆け引きかもしれないが、そんな時代じゃな い」と突き放す。 前島根大学長の北川泉氏は、「善しあしは別に、干拓事業には地 元の夢があった」と話す。「今回の振興策はいかにも即物的で、夢 もビジョンもない。腰を据えて、新しい圏域の将来像を描くべき」 と指摘する。 大局に立って将来像を描くべき立場の県に、その余裕はない。 「百年の大計」(澄田知事)は、わずか一カ月間で、即席の地域振 興計画に姿を変えようとしている。 |