中国短編文学賞 選考を終えて 重松 清
短編小説の魅力というのは大きく分けて二つある、と僕は考えています。
まず一つは、鮮やかなストーリー展開で読者を気持ちよく引っぱってくれること。オー・ヘンリーや志賀直哉の短編などはそのお手本のようなものでしょう。
しかし、かっちりした物語のスジを持たなくても短編小説は成立します。文章からたちのぼる独特のリズムや美意識で読者を気持ちよく酔わせてくれれば、これもまた短編小説の魅力となるのです。こちらのお手本としては泉鏡花や内田百閧挙げておきましょう。
もちろん、どちらか片方しか選んではいけないというわけではありません。ストーリーの面白さと、ストーリーではない部分の面白さ―相反する魅力の両立は、確かに難しいでしょう。しかし、だからこそ挑む価値はあるし、ぜひとも挑んでいただきたいと思っています。お手本としては太宰治、そして村上春樹さんを挙げておきます。
バランス絶妙
今回の受賞作「坂道の停留所」は、その両立を果たした作品でした。しかも絶妙のバランスで。登場人物それぞれの人間模様が息詰まるほどリアルに描かれていながら、作品全体には、えもいわれぬ幻想の霧がかかっている。このバランスがどちらかに偏りすぎてしまったら、つくりものめいてしまうか、思わせぶりになってしまうところを、作者はみごとな筆力で両立させたのです。素晴らしい作品を読ませてもらったことに、審査員の立場を忘れてお礼を申し上げたいほどでした。
対照的な2作
優秀作は、その二つの魅力の対照を味わうにはぴったりの2作になりました。
ストーリーの力で僕の心をとらえて離さなかったのが、「小石の砦(とりで)」です。選考したあとで教えていただいたのですが、作者の福井幸江さんは昨年も「砂で描いた鳥」で優秀作に選ばれています。が、同じ優秀作でも、僕の感触では今年の作品のほうが、さらにレベルが上―昨年少しだけ苦言を呈したタネ明かしの部分が今年の作品からは消えて、そのおかげで読者の胸に残るものが豊かになりました。大きな成長を感じています。
一方、「魚の目」のおおらかなユーモアは、ストーリーが閉じられたあとも、いつまでもこの夫婦のお話を読んでいたいと思わせるものでした。特にいまは、ふわっとしたあたたかな幸せを感じさせる物語を、時代そのものが求めているのではないでしょうか(だからテレビドラマでも動物モノや家族モノがヒットしていますよね)。その意味でも、「魚の目」を読んでいるうちにほほ笑みが浮かんでくる読者はきっと数多いでしょう。
惜しくも選には漏れてしまった作品の中にも、忘れがたいものはたくさんありました。読みごたえのある作品が揃(そろ)った回だと思います。特に「冬空ボール」「祭りの夜に」「ノンストップ」の3作は、入賞とまさに紙一重の差で、作者の次の作品を期待せずにはいられません。どうか書きつづけてください。
しげまつ・きよし 作家。1963年津山市生まれ。早稲田大卒。2001年「ビタミンF」で直木賞。10年「十字架」で吉川英治文学賞。




「坂道の停留所」
「小石の砦(とりで)」


