破壊食い止めが第一歩
回復への手だて 
 

「もう魚はすめんのか」。かつての浅い砂州が40メートル以上の深みに変わった海底を、モニター画面で確認する漁業者や研究者

空前の規模 調査に時間

 「これ以上、悪くはならないとしても、魚は住めん」。違法採取の発覚に伴う業者の操業自粛で、広島県内の海砂採取が止まってから約五カ月後。竹原市沖の大久野島東側に広がる元採取地の海底の映像に、調査船上で地元漁業者がうなった。

 水深四十―五十メートルの海底に、一面に広がるこぶし大の石、また石。元は海面下数メートルまで砂の山がある、マダイの好漁場だった。他の海域も、むき出しの粘土層、浅瀬の藻類を覆う泥状の細かい粒…。

 数百年かかる

 広島県の建設砂採取の場が、川から海へ変わったのは一九六〇年代初めからだ。高度成長期には年間千百万立方メートルを超え、関西空港向けの特別枠四百万立方メートルも採った。県が採取許可した海砂は、記録が残る七〇年以降、計一億六千八百万立方メートル。広島ビッグアーチ三百二十二杯分に当たり、さらに違法採取分も海底から消えた。

 「自然の回復力で元の海底に戻そうとしても、数年の単位では到底無理」。河口付近の砂の動きに詳しい愛媛大工学部の伊福誠助教授(海岸工学)が指摘する。別の専門家は「数百年はかかる」と言い切る。周辺に大きな河川はなく、上流ではダムなどが砂をせき止める。潮流で砂は動くが、採取跡を埋め戻すには長い時間が掛かる、という。

 調査船に乗った広島工業大環境学部の東元定雄教授(地質学)の見方は「魚礁を沈めるにしても、相当な研究がいる。たとえ、数十年後に魚が戻っても、元の環境に再生させるのは不可能に近い」と、さらに悲観的だ。

 広島県は昨年十二月、採取を前提にした「影響低減化方策」の検討のため、専門家ら十四人で海砂利採取環境調査委員会を設置した。採取全面禁止後の今年三月、調査目的を変更。海底地形の詳細なチェック、海底の生物や潮流などを調べ「漁場機能などの復元と創造」を目指す。

 海の濁り懸念

 水中撮影ビデオを見た調査委員会会長の松田治広島大生物生産学部教授は「過去に同じケースがない。半年、一年、十年と状況変化の追跡調査をしなくては、修復、復元が可能かどうか、何とも言えない」と分析する。県は「今の段階で対策は白紙」(水産漁港課)という。  環境庁が提唱する海のミチゲーション(環境修復・創生)技術は、人工干潟、藻場再生などの形で既に、各地で事業化されている。しかし、しゅんせつ土を海中へ投入する広島、愛媛県内での藻場造成事業に対し、海の濁りを懸念する住民の反対は強い。

 海の環境復元の研究も手掛ける通産省中国工業技術研究所(呉市)。採取区域で潜水経験がある上嶋英樹海洋環境制御部長は「自然の修復に必要な、砂を運ぶ潮流や流れを変えて砂をたい積させる技術の研究は、やっと始まったばかり」と話す。

 全域で荒廃も

 「採取区域内に、商売になる砂はない」と広島の業者。今月二十三日に、区域外採取の疑いで書類送検された岡山の業者も、調べに対して「長年の採取で区域内は海底が深い」と答えている。

 業者の証言からは、広島と同様の海底環境の破壊が、海砂採取中の瀬戸内各県の海域でも起きている可能性がある。「修復、復元の決め手がない以上、採取をやめるのが環境破壊を少しでも食い止める第一歩」。全業者が超過採取を認めた、愛媛の市民グループメンバーの思いは強まる。

(海砂問題取材班)



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