| ■ 検証 環境庁の影響調査中間報告 |
環境庁が二十六日、公表した海砂採取による環境影響評価調査の中間報告は、生態系への影響などについて、明確な判断を先送りしながらも、地形変化などの影響を国として正式に裏付けた。中間報告の持つ意味や今後の課題を、調査海域の漁業者の証言や研究者の声などを交えて検証する。
ルポ 備讃瀬戸・竪場島南東部

「この辺りは漁場としては死んでいる」。海砂採取に反対する倉敷市の下津井漁協理事、松本藤五郎さん(63)は操業中の採取船を見つめた。岡山県域の備讃瀬戸。海砂採取に伴う環境影響評価調査の中間報告が環境庁から発表された二十六日、備讃瀬戸を漁場にする同漁協幹部ら三人と、海底地形などの調査地点の一つになった竪場島南東部を訪ねた。
瀬戸大橋や大小の島々が梅雨空にかすみ、白い航跡を残して船が行き交う。吸入ポンプを海底に伸ばす四隻の採取船さえ除けば、美しい瀬戸内の景観が広がる。「ただし、海底は大きく変わっとる」「陸(おか)の人に分からんだけ」。松本さんとともに現場に同行した下津井漁協理事の市橋勉さん(45)、組合員の山田勇さん(59)が言葉をつないだ。
一帯にはかつて、大きな砂州が広がっていた。水深が二、三メートルの浅瀬があり、大きな船が乗り上げることもあった、という。「それが、約三十年前からの採取の結果、非常に深くなっている」「デコボコも激しくなった」―。三人は海底地形などの変化を語り合う。
■地形変化裏付け
![]() 備讃瀬戸の竪場島近くで、海の変化を語る左から松本さん、市橋さん、山田さん。沖合では、海砂採取が今も続いている |
環境庁の中間報告は、こうした漁業者の証言を裏付けた。音響測探機などによる調査では、一九五六(昭和三十一)年の海図に記された深さ十メートル未満の浅瀬は消え、海底は約二十メートルも掘り下がっていた。
もう一カ所の調査地点、広島県の竹原市沖の大久野島東部。中間報告では、水深三―二十メートルの二つの砂州が消え、水深は四十メートルを超える。加えて底質は小石状の礫(れき)が大半を占めると報告。四月に中国新聞社が実施した海底撮影調査の結果を追認する形になった。
海底の地形が大きくえぐられた竪場島南東部。その底質の変化について中間報告は「過去のデータがなく、分からない」としている。しかし、松本さんらは「海底には砂に代わって『銀どべ』が出て、網の目が詰まる」と口をそろえる。地元で、灰色の粘土質の泥をさす「銀どべ」。過剰採取で砂が消え、砂層の下にあった粘土層が現れた部分もある、というのだ。
砂地に住み、タイなどのえさになるイカナゴについても、三人は「海砂採取に伴って激減した」と指摘する。中間報告でも、水質に差がない兵庫県沖の播磨灘で増えているのに、備讃瀬戸では減っているとして、採取の影響を示唆した。
■調査へ熱い期待
下津井漁協は今年初め、備讃瀬戸の六口島沖で浮上した岡山県の採取区域の新設を食い止める原動力になってきた。年間の水揚げ高はノリ養殖を含めて十三億円と、同県内でも有数の漁協だけに、海への思いは熱い。五月末、百三人の組合員を束ねる組合長に就任した鈴木弘さん(55)は「海砂の採取が漁場を壊すのは明らか。われわれが十分納得できる調査を、さらに期待したい」と、あと三年続く調査の行方を注視する。
今後の生態系調査がカギ
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環境庁の今回の中間報告は、国の初の調査として海砂採取の規制強化に向けた材料になった。しかし、瀬戸内海での採取全面禁止を実現させるには、内容的にはまだ「決め手」に欠けるのも事実である。今年から二〇〇〇(平成十二)年度まで本格化する生態系調査の成果がカギを握っている。
一九九四年から始まった調査は、備讃瀬戸と三原瀬戸を調査地に選定。まず採取船が吐き出す濁水の広がりの空撮や水質のサンプル検査などからスタートしたが、ここでは明確な影響は指摘できなかった。
しかし、海底地形の変化の調査では、広島県・三原瀬戸の大久野島東側と岡山県・備讃瀬戸の竪場島南東側で、海底が深くえぐれていたことが確認され、大久野島東側では海の底で極端な礫(れき)化が進んでいたことが判明した。
ただ、その後の調査は、文献調査や各県の採取状況の把握が中心となり、生態系の変化については過去の別の基本調査を照会する段階にとどまった。今年一月、備讃瀬戸で海砂採取の影響が強く指摘されるイカナゴ稚魚の調査を、あらためて始めたばかりだ。
関係者の話によると、環境庁は当初、本年度は海砂採取についての概要を整理するにとどめる予定だった。しかし、国会での追及などを踏まえ、中間報告として環境アセスメントの色彩を濃くしたという。
中間報告の概要を読んだ広島大生物生産学部の松田治教授は「基礎研究としての価値はあるが、過去のデータが十分でないのもネックになっている」と話す。
環境庁は、これまでの調査を年度ごとに冊子にまとめてきたが、公表していなかった。岡山県も海砂採取の影響調査を実施しているものの未公表で、環境庁の中間報告にも生かされていない。「国、自治体、研究者の持つ情報をもっと共有すべきだ」との声も強まっている。
中間報告を策定した「検討会」の大半が、瀬戸内海をフィールドとする研究者たちである。
委員で、生態系の変化に危機感を抱く今林博道広島大生物生産学部教授は「中間報告は遅まきながらの第一歩だ。これからが本番」と指摘。近く、海砂採取地点と非採取地点を比較検討できる別の調査ポイントを選定し、底生生物の確認作業に入るという。
同じく委員である通産省中国工業技術研究所(呉市)の星加章・海洋環境研究室長は「採取船の濁水に含まれる泥の細かい粒子がどうなっていくのかをさらに調べる必要がある」とも指摘する。海砂採取の影響を多角的に追跡できるのか。これからが正念場となる。
広島、岡山、愛媛、香川の四県は、採取する砂の九〇%以上が海砂だった。建設資材として依存する中、第六管区海上保安本部などが、広島と愛媛の全業者を含む、四県の違法採取を摘発。広島の業者は、許可量の四―二倍も採っていた。
各県は、それぞれの許可量について「環境を配慮し削減している」「必要量だけを採る」と説明してきた。しかし違反摘発は、業者の無法ぶりとともに、許可量の信頼性をも揺るがせた。
瀬戸内での海砂採取は各県とも、三十年以上続く。効率よいポンプ式に改良された船が、限られた許可区域で採る。調査した二カ所だけに影響が起きたとは考えにくい。

| 要 旨 | 【調査方法】 一九九四(平成六)年から広島県の三原瀬戸と岡山県の備讃瀬戸の海砂採取区域二地点を中心にした調査や、海砂採取全般についての文献調査・聞き取り。 |
| 【濁水の発生と拡散】(九四年度調査) 備讃瀬戸では、砂利採取船から続く濁水の浮遊物の拡散範囲は最大(大潮時)で幅二百メートル、長さ千七百メートル。三原瀬戸もほぼ同じ傾向で、潮流の強弱、底質の含泥率などにより差異がある。「微粒子による藻場への影響は明確ではない」 |
【排水の水質調査】(九四年度調査) ポンプ式の採取船から排出される濁水や周辺海域の浮遊物の濃度、COD(化学的酸素要求量)などを調査。「排水口周辺以外に影響はほとんど認められなかった」 |
| 【海底地形の変化】(九五年度調査) 音響測深機とサイドスキャンソナーを使用。備讃瀬戸の竪場島南東海域では、採取区域の大半で、水深が二十メートル程度下がっていた。三原瀬戸の採取区域では、大久野島の東から高根島にかけて存在した「能地堆(たい)」「布刈ノ洲」と呼ばれる水深が三―二十メートルだった砂堆が消滅。大久野島東側では、大半が四十メートルを超える水深となった。 |
【底質調査】(九四年度調査) 三原瀬戸で五地点、備讃瀬戸で六地点を調査。大久野島東側では最高八六・九%に達する明らかな海底の礫(れき)化を確認。「海砂採取時に不要物として排出された礫分が、潮流によって流されずに、採取区域に堆積したままとなることが考えられる」。備讃瀬戸では粘土層が最高で二六・六%に及んでいた。 |
| 【イカナゴ稚魚調査】(九七年度から調査続行中) 「備讃瀬戸ではイカナゴ発生量が減少傾向であるのに対し、採取をやめた播磨灘では急激な増加傾向がある」。両海域には水質面では差がないことから、海砂採取の影響が表れているのではないかとの推論もあり、今年一月から備讃瀬戸でイカナゴ稚魚調査を実施し、海砂採取による影響の解析を試みている。 |
【底生生物調査】(九七年度から調査続行中) 予備調査として環境庁の環境管理基本調査(九一―九四年)の四百二十二地点の底生生物の種類数、個体数を解析したが、「採取海域でのデータ不足で影響が分からなかった」。本年度から新たな調査地点を設定して現地調査の方針。 |