中国新聞・参院選2001
小泉改革にゴーサイン '01/7/30

 【社説】きのう投開票された第十九回参院選は、二十一世紀に入って初の 国政選挙であり、すべてに停滞気味のわが国の行く末を占う重要な 選挙だった。三カ月前にトップリーダーに躍り出た小泉純一郎氏の 「聖域なき構造改革」の是非、つまるところ小泉首相を信じるの か、信じないのか―が最大の争点になった。自民党は改選議席を超 え、与党三党では非改選議席を合わせた参院過半数(百二十四議 席)を大幅に上回った。有権者は戸惑いつつも「小泉改革」を信 任、引き続き現在の与党体制に新世紀のわが国の針路を任せた形に なった。

 便乗の「改革」大合唱

 選挙区選挙では、自民党が改選議席四十四を確保した。三年前の 前回選挙で選挙区の獲得議席はわずか三十。比例代表を含め大幅な 復調ぶりである。すさまじい小泉人気が、同党候補の票を押し上げ た。対する野党第一党の民主党は改選議席二十二は上回ったもの の、惨敗した共産、社民同様に、反小泉、反自民の受け皿にはなり 得なかった。小泉支持の無所属新人と自民現職が当選、対決色を鮮 明にした民主現職が涙をのんだ広島選挙区が象徴している。

 しかし今回の選挙、有権者は最後まで迷ったのではないか。選挙 は「改革」の中身、改革に伴う「痛み」が問われたが、首相の「聖 域なき構造改革」が抽象的なうえ、各党、各候補者の主張も具体性 に欠けていたからだ。異常ともいえる首相人気に便乗した改革の大 合唱が分かりにくさに輪をかけた。

 首相の選挙戦術は際立っていた。一つは「聖域なき構造改革」 「自民党を変える 日本を変える」「自民党をつぶしてもいい」な どに見られるように、簡潔で過激な呼び掛けに終始したことであ る。

 これまでは自民党を中心にはびこる強固な既得権益が政治腐敗の 温床になる一方で、巨大な官僚組織が政策を主導してきた。こうし た状況を国民は、時に厳しく批判しながらも結果的に許してきた。 日本の政治に詳しいコロンビア大学のジェラルド・カーチス教授も 「経済にしろ外交にしろ政府の政策の根本的な変化を世論が支持し なかった」(近著「永田町政治の興亡」)と指摘している。だが、 閉塞(そく)感の強まる中で国民の側にそうした状況からの決別意 識が芽生えてきたのも事実。首相は直さい的な訴えで、その変化を すくい取ろうとした。

 しかし首相は、大胆な改革の必要性を声高に訴えはしたが、スロ ーガンの域を出なかった。野党側は「無責任すぎる」と強く批判し たものの有権者を納得させる具体案は提示できなかった。結局、有 権者は「いま痛みを伴う改革をやらなければ、あとからもっと大き な痛みに見舞われる」のか「景気が悪化する中での構造改革一辺倒 は日本を沈没させる」のか、将来像が描けないないまま、倒産や失 業を伴うハードランディング路線を選択したことになる。

 いまひとつは、「主張がぶれない」ことを徹底したことだった。 株価がバブル後の最安値を更新しても「一喜一憂しない。前倒しし てでも改革をやる」と断言し、首相としての靖国神社参拝も「何が いけないのか理解に苦しむ」と持論を貫いた。道路特定財源の見直 し、郵政三事業の民営化問題などについても「私はぶれていない」 と繰り返した。前回選挙で当時の橋本龍太郎首相が、投票日直前に 所得税の恒久減税を打ち出して惨敗し退陣したことを教訓にしてい るのだろう。橋本氏も改革を訴え支持率も高かったが、ぶれたこの 一言が命取りになった。

 だが、姿勢がぶれないことで問題が解決できるのかについては素 通りした。景気の悪化が進む中で二律背反とも思える構造改革をど う進めるのか、憲法上の疑義も指摘される靖国神社参拝を、中国な どが懸念を表明する中でなぜこの時期に強行しようとするのか説明 がなかった。各問題が持つ意味を掘り下げずに済ませるやり方は、 選挙戦術というだけでは片付けられない。それでも有権者は多少の 危惧(ぐ)を抱きつつ、首相の一貫性に頼もしさを見たのかもしれ ない。

 非拘束名簿式も有権者を戸惑わせた。政党が順位をつける拘束名 簿式が、財団法人ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KS D)をめぐる「金で順位を買う」不祥事の発覚で変更された。有権 者からすれば、より自分の意思が反映される仕組みにはなった。政 党名でも個人名でも政党の得票になるため、業界と結び付きが強く 組織票が期待できる官僚出身者のほか、元スポーツ選手、芸能人、 タレントの大量立候補につながった。二百人を超える候補者の主張 がどれだけ聞かれたかにも疑問が残る。

 人気と投票率かい離

 小泉人気と投票率は意外に結びつかなかった。過去最低だった前 々回の44・5%は上回ったが、前回の58・8%は下回りそうだ。自 民党を大きくすることは首相の改革に反対する抵抗勢力を増やすこ とになりかねないとの警戒心、といって野党は物足りないという複 雑な思いなども足を重くさせた。改革を唱えながら当選後は各論で 改革に抵抗しそうな面従腹背の議員らと景気の悪化―小泉改革はこ の二つの大きな壁を乗り越えなければ成就しない。支持率の高さが 最大のよりどころである首相にとって、人気と投票率のギャップは 不安材料だ。


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