愛媛県越智郡宮窪町が毎年夏に開く「宮窪瀬戸船釣り大会」は、釣り好きにはこたえられないイベントである。船頭との触れ合いあり、酒あり、うまいメシありの二日間。
大会はまず、船頭と釣り人が酒を酌み交わす前夜祭で幕を開けた。
「潮の読み方がすごい。同じ釣り場に十五分ぐらいしかおらんのだから」。新居浜市から同僚と参加した会社員、一色利客さん(49)は、チームを組む船頭の村上時春さん(57)と話にふけっていた。十七、八年前、村上さんの案内で三十数枚のタイを釣り上げた旧知の間柄である。
かじ取りの極意を問えば、潮を読み、磯(いそ)のポイントをつかむことに尽きる、という。「生まれた場所だから、磯のことは自分の家の中みたいに分かる」。話に興が乗ってきた村上さんは、当然のことのように言ってのけた。
翌朝七時。村上水軍の旗を立てた二十隻の遊漁船が、朝もやの中にこぎ出した。大会は、船頭と釣り人四人がチームを組み、五人一組で釣った魚の量が競われた。
魚は磯に居着く。いい具合に釣り糸を垂らすため、潮の上手の場所取りは激しい。だから、移動する時、大した距離でもないのに、船は全速力で駆けるのだ。「明日は食わんでいいから、今日は食ってくれ。そんな気持ちでやってるからね」。初老の船頭が前夜、そう言ってほほ笑んだことを思い出した。
キス、ホゴメバル、ギザミ、トラハゼ…。一色さんのチームが五時間で釣った雑魚は、九・一キロになった。昼には、接岸した船の上で、漁師料理が振る舞われた。
「針がちょっとのぞくようにえさをつけたら、釣れるようになったじゃろ」。タイ飯をよそおいながら、村上さんが返事を求めた。「半分は、船頭さんが釣ったんだもんなあ」。釣り人は最後まで、感心するばかりだった。
![]() 夏特有の朝もやの海にこぎ出した遊漁船。潮を読み、船頭は小刻みに移動する |

