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口総の秋祭りが迎えたクライマックス。かがり火に照らされ、みこしが参道を進んだ |
十月初旬。秋祭り最中の大三島では、あちらこちらで太鼓の音が響きわたっていた。雄の獅子、「乱獅子(だんじし)」で知られる大三島町野々江は祭りの前夜、「宵のもし(催し)」でにぎわった。
集会場の隅の、ある集団が目を引いた。六、七十歳代とおぼしき男性が十四、五人。立てひざで無言で、舞台を見据えている。時に獅子舞を指さし、隣の耳元に何やらささやく。
「こまい時から奴(やっこ)や笛をやってきたんよ」。その中の一人、大阪市大正区でたこ焼きを売っている渡辺近雄さん(69)は、秋祭りには必ず島へ戻る。「らくだの背中みたいにでこぼこすんのは嫌われるんや。『下手くそー』と、ヤジが飛んでな。あそこのもんが上手や下手やと言われるから、必死やった」。一群は、代々の踊り手たちだった。
渡辺さんたちは、十七、八歳のころ、舞台に立った。獅子舞をやるのも競争だった。今は、保存会が継承している。「今年の獅子舞?
うまい。うまいよ」。自分たちの時と変わらない熱の入った演技に、満足げな笑みを浮かべた。
野々江の乱獅子は、室内で舞う座敷獅子。みこしの獅子舞の一行は、2日間で130軒の民家を回った |
「夜、庭に立てたのぼりがパタパタと音を立てるのは、子供心に何ともいえんかったな」。口総(くちすぼ)地区の町議、杉野一志さん(63)は今年、奴や獅子舞、みこしの行列の先頭に立つ「塩振り」を務めた。踊り子の中には、かつては見られなかった女の子の姿もある。
「昔はみこしも三台あったが、今は人がおらんで一台になった。子供もここにおるんが全部ですわ」
二日間にわたった口総の祭りは、宮入りを迎えていた。祭りを終えたくない男たちが、鳥居の手前でいつまでもみこしを揺らしている。午前零時前、ついに、終わりを告げるホラ貝が山あいに響いた。参道のかがり火が一斉に放たれた。みこしが、なだれ込むように駆け込んでいった。

