磯干狩り <愛媛県岩城村>


■ 潮は招くよ夜の漁場へ ■

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 中電灯に照らされた磯(いそ)の水面が、天の川のように暗やみに浮かび上がる。「サザエがおるよ」。名人がくぼみを指して教えてくれるのだが、目を凝らしてもどこにいるのか、見当がつかない。その間にも、名人は岩場を先へ先へと進む。

 初冬から厳寒期にかけ、愛媛県越智郡岩城村は何だかソワソワしてくる。潮が最も大きく満ち引きする大潮の日、防寒着に身をくるんだ長靴姿の男たちが、真夜中の海岸へ繰り出す。岩場に潜むサザエやアワビ、ナマコなどが目当てだ。


干潮を待って、バケツを提げた人が磯に出る。せわしなく動く懐中電灯が、暗やみに光の帯をつくる(F5・6で2分露出。ISO400)
 防士の浜本等さん(44)は、自他とも認める「磯干狩り名人」。十二月三日の午前三時、父親譲りの和船で、二キロほど離れた津波(つば)島へ渡った。思ったほど気温は下がらず、満月が明るい。「暗くて寒い方が、よー下げるんじゃがのー」。同じ大潮でも、新月で気圧が高い時ほど潮が引くことを、経験で知っている。

 岩場はでこぼこして足場が悪い上に、暗く、滑る。通い慣れた浜本さんは、ポイントをのぞきながらすたすた進むが、こちらは付いていくのがやっと。与えられた時間は干潮前後の二時間。ぐずぐずしてはいられないのだ。

 浜本さんは体調十四、五センチのよく肥えたナマコを十数個取っていた。微妙に異なる光の反射の仕方や、フンを手掛かりに名人は探る。魚介類の数は目に見えて減っている。アワビなどは目の届かないくぼみの天井に付いていることが多く、水面に光をあて、殻の一部を反射させて見付けるのだという。

 「潮の引きが悪かったから、距離を稼ぐのではなく、じっくり探し歩く戦略に変えた」と、後で話した。潮の状況を瞬時に読み取り、効率よく磯干狩りをする能力が身についている。一昨年には、釣りの師匠である役場収入役の森本裕人さん(56)らと、戦果を持ち寄って飲み食いするためのカラオケボックスまで作ってしまった。海との付き合い方も堂に入っている。

 城島周辺でも磯が荒れ、魚介類が居着きにくくなった。村は、石を詰めたかごを岩城島と赤穂根島の沖に沈め、漁場を守る取り組みを始めた。姿を消していたアサリも今年は少し取れた。「磯干狩りでも、はぐった石は元に戻さんといかんよね。来年もとりに来るんなら、獲物が多い方がええじゃろう」。海の生態を知る浜本さんの言葉には、説得力がある。

 磯干狩りの上手な人が磯を自在に動き回ることから、島ではこまめな人を「いそ(磯)しい人」と呼ぶという。浜本さんは、その代表格だ。「どんなに寒くなっても、ぼくは沖が恋しいけん」。大潮の日は、目覚まし時計も必要ない。



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