潮流信号所 <愛媛県吉海町>


■ 航行見守る「やじろべえ」 ■

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 波を立て、潮が北へ流れている。最も狭い所で幅が四百三十メートルしかない中水道を、貨物船が潮に吸い込まれるように北進する。直径二メートル弱の鉄製の赤い円を振り上げた潮流信号は、潮の北流を表す。潮が転じ南流になれば、標識が一八〇度回転し、黒四角が上がる。海から、やじろべえのような標識がはっきり見えた。

 普段は無人の中渡島=愛媛県越智郡吉海町=に十二月十四日、作業服姿の今治海上保安部職員が年末総点検のため、降り立っていた。来島海峡大橋の橋脚が立つ馬島の東隣の島。来島海峡で最初の潮流信号所として、一九〇九年に設置された。今も昔ながらの腕木式信号を動かしている。

 「ジュンチュウギャクセイというのを聞いたことがありますか?」。信号課の中西彰課長(50)に説明を受けた時、とっさに「順中逆西」とは思いつかなかった。屈曲している上、最強時に潮流が十ノットを超す来島海峡航路は、瀬戸内海随一の難所。右側通行という航海の鉄則が、ここでは当てはまらないのだ。


中水道の潮流を示す中渡島の腕木式潮流信号所。90年前から、赤丸と黒四角の標識を振り続けている
 峡は点在する島で三つの水道に分かれている。今治寄りから西水道、中水道、東水道で、本航路は中と西。中水道は潮の流れに沿い、西水道は潮に逆らって進むのがここでの約束事だ。「潮に逆らう方がかじを切りやすいから、大きくZ字に曲がる西水道は『逆西』で、ゆっくり抜けるんですよ」と中西さん。狭いがほぼ直線の中水道は、流れにのって通り抜けるというわけだ。

 中渡島に潮流信号所ができた後、航路の東西入り口よりに信号所が次々と設けられた。現在、来島海峡に五カ所ある。今年一月には、巨大船の通行を監視する海上交通センターも完成。万全の体制が整った。

 がまともに吹く中渡島のがけの上で、職員が保守作業をしていた。夜間に使う赤と緑の灯火信号を磨いたり、自家発電のエンジンを点検したり。中西さんは、潮流が変わって振り子が回転しないうちにと、黒のパネルにペンキを塗り始めた。

 中渡島には九一年まで人が泊まり込んでいた。この日、作業に来ていた鈴木香住さん(36)は、八三年から一年間、中渡島に宿直したという。「一週間交代で二人が泊まり込むんだけど、あのころは新人だったからメシの支度が大変だったなあ」。海の向こうの街の灯を恨めしく思うこともあったという。

 中渡島の形象標識は九十年来続いてきた。が、遠くから見えにくいことなどを理由に、将来的には廃止になると言われている。「電光板が増え、腕木式は時代に取り残されたタイプのものになってますよね。でも、ここにある間はしっかり守っていきますよ」。中西さんは黙々と点検を続けた。



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