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愛媛県越智郡の伯方島周辺で和船を見かけたら、まず、この人の手によるものと考えて間違いない。伯方町の船大工、渡辺忠一さん(66)。「愛媛で船大工はもう、わしだけ。こがなもうけにならん仕事するもんはおらんからの」。大三島橋を望む熊口(くまご)港に、作業場はある。
十七歳で弟子入りした。終戦後で仕事がなく、父親に勧められた。「そのころは同年配の見習いが十人ぐらいおった。作業場へ出入りする大工も多かったから、うまい人を見つけて手元をじーっと見よった」
安定感のあるたたずまいが特徴的な和船。渡辺さん(左から2人目)を慕い、作業場のある海岸に釣り人が集まる
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「和船の良さ? 波に強いし、夏でも暑くなくて楽なんよね。難点といえば手入れじゃけど、手をかけるほどきれいになるんもええ」と渡辺さん。
桟橋に集まった船で一番古いのは、三十数年前の作品だった。和船を好む釣り師に何代も引き継がれている。「コンクリートの家に住んだら結露がすごいが、木の家はそんなことなかろ。木船もそれと一緒で、乗り心地がええんよ」。十五年前に造った和船を今も愛用する近江伸さん(74)が、説明してくれた。
船の大きさは、載せるエンジンで決まる。エンジンに対する船体の寸法、長さに対する幅などは基本があるが、独自の係数で、より速く進む船を造るのが腕の見せどころ。渡辺さんは、「頭の中にあるもんで、説明しようがないが・・・」。
漁船ぐらいなら、図面は不要。「どこをどう工夫した、なんていうことは船主にも言わんが、今度はああしよう、こうしようと、船を造るたびに考えるんよ。性分かどうか知らんが、凝ってしまうんよね」。船材は、宮崎県飫肥(おび)地方の杉しか使わない。
水軍の歴史や和船の構造への関心が高まり、このところ、模型や祭りに使う船の注文が相次いでいる。その日は、隣町の水軍資料館に頼まれた関船に取りかかっていた。当時の絵を基に復元した模型は船首が鋭く船体がスマートで、小早船とも呼ばれたゆえんを想像させる。
「いつかは自分で資料館をつくりたい」と言う渡辺さん。だが、新たな注文を携えて作業場を訪れる人は絶えない。夢の実現は、まだまだ先になりそうだ。

