1998.12.11 
title (1)車との共生

趣き生かした工夫正念場

map  「観光バスやマイカーが大挙して来たら、尾道らしい雰囲気がだめになる。渋滞がない程度に来てほしい」。尾道市役所四階の市長室で、市長の亀田良一(71)が打ち明けた。

 山懐に抱かれるように、山手から海岸までぎっしり立て込んだ寺社や家々。車社会以前に栄え、開港八百年の歴史が折り重なる坂と路地の町は、歩いて回るのに適している。道が狭く駐車場は少ないため、車では不便極まりない。

渡船使ってテスト

 高速交通の結節点に当たり、瀬戸内の十字路を目指す尾道市。市民の中には「このままでは通過都市になる」という危機感の一方で、「町のたたずまいは変えたくない」というこだわりもある。観光バスの運転手泣かせの町は今、「車との共生」という架橋後の戦略づくりを突き付けられている。

 かつてはハイウエー・オアシス構想もあった。高速道サービスエリアに車を置いた人を、市街地に公共交通機関で運ぶ。市が検討してきたが、適地も財源もなくとん挫。その後、市長に就任した亀田は、郊外に観光バス駐車場を作った鎌倉をモデルにしたい考えだ。

 しまなみ海道が開通する五月一日から五日間、観光バスやマイカー対策として、市などは渡船で結ばれた対岸向島の造船所グラウンドや郊外などに臨時駐車場を確保する予定だ。「今後の駐車場対策を考えるうえでの実験的な試み」と商工観光課長の中川宏(53)は位置付ける。

郊外にバス駐車場

 「団体客を受け入れられない町」というイメージ返上を目指す民間の動きも出ている。地元タクシー会社は観光バス駐車場を郊外の東尾道に確保。タクシーに乗せ換えて名所を巡る事業を始める。「環境さえ整えれば団体客は必ず来る」と社長の大崎賢二(55)。市内十五の旅館とホテルも開通後、昼食の団体客を受け入れる。

 車にも優しい街を目指そうという市民グループ「おのみち車考(しゃこう)くらぶ」も三年前、街づくりの提案をした。世話人だった加藤晴彦(39)は「尾道らしい趣きを残しながら、車との共生を目指す。それは観光客向けだけでなく、住民向けも必要という結論に行き着いた」と振り返る。

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向島から望む尾道市街地。坂と路地に息づく暮らしも魅力の一つだ
 車考くらぶは、即効策として道路標識や案内板を見えやすくするなどを挙げ、長期的には、旧市街地の居住者向けの駐車場や道路整備を提案した。車が入らない山手地区は空き家が目立つなど、過疎高齢化が進む中心部。「古き良さを残す暮らしがあってこそ、観光尾道が引き立つ」と加藤らが考えたからだ。

空き家の利用進む

 そして今、旧市街地の空洞化を和らげる新しい動きも出始めている。山手の東土堂町、天寧寺近くの空き家に九月、茶店が誕生。西土堂町、持光寺東側の空き家を民宿に使えるよう補修する若者もいる。商店街も、空き店舗にしまなみの物産などを並べた店を設けた。

 架橋完成で、人、物の流れは海から陸に大きく傾く。「港町尾道は大きくかじを切り替える時だ。地の利を生かし、車との共生を真剣に考えるタイムリミットに来ている」と尾道商工会議所専務理事の寄高暢(62)。その模索は、尾道をグレードアップさせる戦略でもある。

(敬称略)


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