1998.12.18 
title (6)リタイア村

定年者誘致で町おこし

map  ふるさと愛媛に思いを寄せる男たちの視線が、ステージに注がれた。

 「もし周囲に、リタイア後の人生を送る場所として、わが島に興味を持ってくれそうな人がいれば、ご紹介下さい」。十一月五日、広島市中区であった在広愛媛県人会。大三島町長の菅良二(55)が約百二十人の会員に呼び掛けた。

人口減少は年100人

 大三島町の人口は半世紀前に比べて三分の一の約四千六百人。しかも五人に二人が六五歳以上。しまなみ沿線で最も高齢化が進んだ町である。そのリーダーである菅は、毎年百人ずつの人口減に危機感を強め、定年退職者の誘致を図ろうと駆け付けた。

 受け皿は、二百平方メートルの菜園がついた町営住宅十六戸。Uターン、Iターン者向けに活用する計画で、一部は二〜三年後に出来上がる。海まで約五百メートル。温暖な気候。箱庭のような島々の景観。釣りが楽しめる海も、果樹栽培ができる山もある。そして橋で都市部を結ばれれば救急面での不安も消える。

photo
しまなみ海道の開通を控え、「美しい島で迎えよう」と花をいっぱい運動を展開する越智夫妻(左の2人)ら
妻説得しUターン

 菅が打ち出した誘致作戦の背景には、現実のモデルがいた。

 十二年前、大阪から夫婦二人でUターンした越智幸博(64)と万里子(67)である。幸博はかつて架橋が一九八五年に完成すると聞き、それを目標に「老後は育った大三島で」と決心した。

 「自給自足で釣り三昧(ざんまい)の生活を送ろう」と鹿児島県出身の妻を口説き、八六年に戻った。だが、廃校となった母校のグラウンドで雑草が伸び、生ごみさえ散乱している光景に驚いた。「これではいけない」。地元の人たちとボランティアで花いっぱい運動をスタート。一角に花壇を造った。妻はヨガ教室も主宰し、夫婦で町おこしに一役買っている。

 越智同様の夢を描き、大三島へ一昨年十二月にIターンした画家もいる。東京生まれの井畑健二(62)。経営していた内装会社を実弟に譲り、青年時代からのプランだった「釣り、絵画三昧」の生活実現を目指した。

文化活動にも刺激

 亡くなった前妻は瀬戸田町出身でもあり、「引退後は多島美の瀬戸内で」と知人を頼って大三島へ移り住んだ。海沿いの家で釣りやサザエとりなどを楽しみながら絵画教室を主宰し、今年の愛媛県展では生徒四人が入選という快挙を果たした。井畑のIターンは町の文化活動へ刺激を与えた。

 だが、Uターンを望みながら、夫の郷里への移住に妻の理解が得られないケースもある。越智幸博は「苦労して建てたマイホームを手放せるか。また、都会とは違う濃密な人間関係もある」と田舎暮らしへの参入の難しさを語る。

 Iターンにもハードルがある。井畑は「野菜や果樹を作ろうと思っても農地は規制が厳しく買いにくい。立地のよい家や土地を売ってくれる人も少ない」と指摘する。

 それでも菅は意欲的だ。「六十歳過ぎなら、まだまだ仕事もできる。一回外を見てきただけに、違った視点を持っている。その力を町づくりに使ってほしい」。越智も「受け入れのための協力は惜しまない」と呼応した。

(敬称略)

=第3部・おわり=


indexBack