中国新聞社

'99.1.21   


 
うまい魚 産直に活路 しまなみリレーセッション 園芸海道 色と香りと

 瀬戸内しまなみ海道(本四連絡橋尾道―今治ルート)の五月一日開通へ向け、地域づくりを考える「しまなみリレーセッション」が十四日、広島県向島町で始まった。第一回は「農業・漁業おこし」をテーマに沿線周辺の農・漁業者、行政関係者ら約五十人が参加。視察の後、討議を繰り広げた。

生カキの選別、袋詰め作業を見学する漁業分科会の参加者
(尾道市東尾道のクニヒロ)


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しまなみ海道 PHOTO
互いの連携や消費者との交流発展の可能性などを探った農業分科会




はっしん海道物語

第1回 農業・漁業おこし 〜広島県向島


しまなみの海道周辺地域の漁獲量(左)・マダイの漁獲量(右)の推移


<しまなみの漁業>
 しまなみ海道周辺地域のここ10年の漁獲量は、広島側で3分の1に落ち込み、愛媛側も緩やかに減少している。マダイの漁獲量は広島側でほぼ半減。愛媛側では1500トンレベルを維持し、瀬戸内海全体の3割程度という高いウエートを占めている。

次回は「景観づくり」(29日)開催・因島市
しまなみ海道沿線市町村の主なかんきつ生産

<しまなみの農業>
 しまなみ協議会に所属する尾道、因島、向島、瀬戸田の2市2町と今治市、愛媛県越智郡内15町村の温州ミカンなど5種類のかんきつ生産量は1997年のデータで合計10万トン。しまなみ地域では瀬戸田がトップで県境をはさんだ上浦町、大三島町と続く。温州ミカンだけをみると、広島側2市2町の生産量は県内の35パーセントを占める。
 漁 業  乱獲・汚染の歯止め急務

付加価値  多島海がはぐくんだこまやかな味覚の魚。しまなみ地域の代表的な資源にいかに付加価値を付けていくか。架橋開通をにらんだ討議が始まった。

 「取る」ではなく「売る」実践の報告が、漁業者から相次いだ。尾道市の吉和漁協理事の笹井満雄さん(48)は「週二回の朝市を漁協で始めた。市場に出荷しても安くしか売れない魚を出している」。宮窪水産研究会長の藤本二郎さん(41)は、九七年三月から漁師市を毎月一回開催中。「新鮮な天然物にこだわり、取った次の日に売る。自分で値段を付けられるのが強み」と直売のメリットを強調した。

 弓削漁協青年部事務局長の浪切睦夫さん(37)は「昨年五月に初めて朝市を開いた。今後も続けたい」。尾道漁協監事の浜田誠治さん(37)は「尾道地区水産青年協議会では、年に一回若い女性を招く魚食普及交流会も続けている」。消費者とつながることに手ごたえを感じ始めている。

 直売ブームの背景には魚価の低迷がある。代表的な魚のマダイの価格は一部で養殖と天然の逆転現象も。タチウオ釣りに転じた因島市漁協青年部長角好美さん(45)は「取った人間が分かるようなとろ箱に工夫して出荷している」と商品価値の維持に懸命だ。福山市在住で元新農政研究所理事の古沢昭さん(72)は「しまなみ地域のブランドを付けたり、広島のタイを東京へ持って行くなど戦略的な売り方が必要」と指摘した。

 加工部門へ乗り出す動きも。宮窪では取ってきたでべらの加工直販も始めた。一方、尾道名産のでべら加工をしている笹井さんは「今シーズン、例年の四分の一しか原料の魚を確保できなかった。自然に対して加工業者は弱い」と資源減少の悩みを打ち明けた。

 徐々にだが、しまなみ海道開通に向けた動きも始まっている。宮窪町漁協職員の藤本義信さん(34)は「水軍の拠点だった能島の観光巡り、潮流体験に昨年から取り組み、好評だ」と報告。尾道漁協組合長の魚谷成生さん(62)は「今春までに屋形船を尾道水道に就航させるべく奮闘中。規模の大きい漁師料理店と近海の干物を売る店も」と意気込んだ。

 因島の角さんは「魚を売りに出すなど、しまなみイベントに協力したい」。一方、弓削の浪切さんは「特に考えていない」、今治市のかまぼこ製造業桧垣賢二さん(47)は「橋に興味は持つが、業界での統一した取り組みは欠けている」と語った。

PHOTO 好評の
シタビラメ一夜干し
「しまなみ地域を訪れる人をもてなそうと、シタビラメの一夜干しを手掛けてみた。旅館宿泊客に好評です」
=因島市の食品加工業平野博さん(63)

投げ釣り公園
実現できれば
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「近隣漁協の了解を得たうえで、向島と岩子島の間の御幸瀬戸に投げ釣り公園をつくりたい」
=尾道漁業組合長の魚谷成生さん

環境と資源  海の生産力に衰えが目立つ。吉和漁協の笹井さんは「四、五キロの大ダイが今はいない。乱獲も問題だが、海砂採取など環境悪化も影響していると思う」。因島市漁協の角さんは「たまに遊漁客を乗せるが、あまり釣れん。船上の魚料理と持ち帰りのタイでカバーしている」と打ち明けた。

 海は埋め立てられ、魚を育てる川の水はダムで遮られた。広島県水産漁港課主任専門技術員の大久保忠さん(57)は「しまなみ地域は、自然環境をメーンに考えるべき。生活レベル向上のためとはいえ、これ以上汚したらいけない」と強調した。

 海の汚れも進む。弓削漁協の浪切さんは「網に入るのは魚よりごみの方が多い」と嘆く。各漁協ではごみ袋を配布して持ち帰り運動などに取り組むが、徹底はいまひとつ。助言者の其田さんは「海の恩恵をこうむっている自分らが襟を正し、我慢することから始めよう」と呼び掛けた。

 マダイ、クロダイ、ヒラメなど稚魚放流も進む。目指すのは資源管理型漁業への移行。愛媛県水産課栽培漁業係長の松岡学さん(40)は「魚は県境を越えて移動する。広域での管理をどうして行くか」と直面する課題を挙げた。

 釣り人口も増えた。魚群探知機を装備したプレジャーボートなどレジャー客による乱獲が問題になり、「海はだれのもの」との論議も起きている。其田さんは「将来的には、漁協組合員も一定区域の漁場を提供するなど調整が必要」と見通す。

 古沢さんは「外国では、持ち帰ってよい匹数以外はリリースするなど資源保護の市民教育に熱心。しまなみ地域でも、子孫に立派な漁場をどう残していくべきか、漁民や一般市民も加わった議論とコンセンサスづくりが大切」と強調した。

PHOTO 豊かな海
再生願い藻場造成
「豊かな海を取り戻そうと、藻場造成を研究中。試行錯誤し、3年目でアラメが生えてきた」
=宮窪水産研究会長の藤本二郎さん
 農 業  人脈広げ販路を多彩に

付加価値

 「しまなみ全体が園芸ベルト地帯のような、一つの思想でつながれば、観光客の楽しみは一段と増す」。全国初のかんきつ公園「シトラスパーク瀬戸田」専務の草刈進さん(59)が論議の口火を切った。

 しまなみ海道沿線の農業の軸は、ミカンと花の栽培。とりわけ、広島側では県が園芸ベルト地帯構想を打ち出し、向島洋らんセンター、因島フラワーセンター、シトラスパーク瀬戸田の三つの施設が整った。そこで草刈さんは愛媛側への構想拡大による農業おこしを提案した。

 フラワーセンター所長の神野一大さん(55)が言葉を継ぐ。「三施設は昨年から情報交換を重ねている。共同でPR活動を展開するなど、しまなみ開通を契機に新たな仕掛けを考えたい」と連携に意欲を示した。

 愛媛側からも声が出た。大三島町のミカン農家、越智秀和さん(45)は「どの島の農家も、新鮮でおいしいものを提供するという考えで貫かれている。そんな思想も一つのベルトになりうる」と指摘した。

 「広島の施設で観光客を呼び込んでもらえるのはチャンス。愛媛の果物も味わってもらえる」。愛媛県立果樹試験場岩城分場長の脇義富さん(51)が便乗作戦を勧めると、笑い声が上がるなど打ち解けたムードになった。

 この後、脇さんは本論に入り、新品種少量栽培での活性化を提案。岩城村でのライム栽培の事例を挙げ、「新品種なら少しだけで日本一の産地になるうる」と訴えた。それぞれの島が新品種のかんきつ栽培に取り組み、しまなみ地域が競争しながら繁栄していくシナリオである。

 花き栽培でのアイデアも。百二十種類、四千五百株の世界各地のバラが集められた公園のある愛媛県吉海町。花びらを使ったポプリづくりに取り組んでいる村上真寿子さん(51)は「ポプリづくりが地域でのバラ生産、そして苗の販売へとつながるきっかけに」と夢を描いた。

 造船会社退職後、花の苗づくりをしている因島市の畑中良博さん(54)は「これまで福山と岡山へ出荷していたが、今後は四国へも」と販路拡大のチャンスを強調した。野菜では日本一のワケギの産地、向島町の岡本勢子さん(46)が「日本一という言葉には力がある。日本一を維持していきたい」と決意を込めた。

 環境問題へも議論は及んだ。向島町農林水産課で有機農法専門職を務める楠勝智さん(24)は「環境保全型農業を農業振興の中に位置付けている。農協の下部組織である有機農業研究会とタイアップし、向島を有機農業の里として有名にしたい」と取り組みを報告した。

観光客と
知り合うチャンス
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「開通したら、観光客にどんどん声をかけたらいいんですよ。知り合いをつくり、人脈を広げるチャンス」
=大三島町のミカン農家、越智秀和さん




交流  しまなみ開通で流通が変わる。「地域振興のカギは消費者との多彩な交流」と新たな議題を投げ掛けたのは、甲山地域農業改良普及センター尾道支所地域課長、富田雍裕さん(56)。

 大三島町の越智さんは「単なる経済行為だけでなく、人間的なつながりができることが面白い」と切り出した。大阪府豊中市の女性グループと十五年、産直を続けているミカン農家の後継者グループ、オレンジ会の一員である。

 「島で大規模な山林火災があった時、女性グループから見舞いの電話をもらった。親戚のような感じの付き合いだってできる。ミカン箱の中にレモンを一個入れるとか、自分の工夫やセンスを訴えれば、リピーターになって再注文もしてくれる」と体験を語った。

 夜間、施設を開放し、ジャズなどのコンサートを開く向島洋らんセンター所長の林原透さん(53)は「施設はラン生産者のアンテナショップ」と位置付ける。「市場に出して人に値段を決めてもらうのでなく、消費者まで持って行くのが本来の生産者の仕事」と消費者との交流を軸にした意識改革を求めた。

 瀬戸田町果樹研究同志会会長の長畠耕一さん(45)は「農家参加型の物販の充実」を訴え。ブドウ農家で尾道市農業後継者クラブ会長の内海光雅さん(26)は「今後は生産だけでなく、販売戦略を練る必要がある」と力を込めた。

 助言者の持田教授は、首都圏の生協代表を対象に農家に宿泊、生活体験をしてもらう瀬戸田町の試みを紹介。「しまなみ地域の農漁村生活や景観も資源として活用していく戦略が必要」と締めくくった。

「バラの町づくり」
したいな
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「しまなみの開通イベントで世界のバラ祭りも計画されています。バラの町づくりを広げたい」
=吉海町の村上真寿子さん

PHOTO かんきつの
種類を増やそう
「価格変動の激しい温州ミカン一辺倒ではなく、もっと多くのかんきつを導入すれば」
=シトラスパーク瀬戸田専務の草刈進さん



問題提起 ― 消費者ニーズまず把握

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愛媛県三崎漁協専務理事
箕田稔氏(52)

 東京や大阪の百貨店や大型スーパーと取引がある。今では偉そうに言えるが、「岬(はな)アジ・岬サバ」といった「ブランド化」にたどり着くには時間がかかり、苦労もあった。

 当初、市場一本やりだったが、魚価が不安定で、産直に切り替えていった。パンフレットやビデオをつくり、全国を渡り歩いたが、二、三年は取引にならなかった。良い魚を東京、大阪の消費市場へ送り、悪い魚を地元に残したことが、失敗の原因だった。地元に来た人に魚のうまさをPRできなかったからだ。

 同時に三崎へ来る香川、広島などの観光客を「営業マン」にしてしまおうとも、考えた。彼らが自宅に帰り、もう一度食べたいと思わせればいい。口コミで情報が広がる。

 そのため、レストランのある物産センターを建設。地元の魚を、自分たちが刺し身にしたり、サザエや伊勢エビを焼いた。素材をおいしく食べてもらおうと思ったからだ。今では売り上げが三億二千万円。本物さえあれば、人は来ると確信した。

 消費者のニーズに合った魚の加工にも力を入れた。アジやサバは、身を開いて売った。そのままのものより高く売れている。ブランド化を維持するには、品不足は禁物。サザエ、伊勢エビ、アワビなどは高知、宮崎、鹿児島や韓国へ買い付けに行くこともある。

 大量に取ると、魚価が下がるため、漁獲量の制限もしている。よその魚とどこが違うか、良さ、悪さを知ったうえで、仕事をしてきたから今がある。



問題提起 ― 連携強めビジネス創出

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広島県立大生物資源学部教授
持田紀治氏(58)

 しまなみ海道は、本州から四国へ一気に抜ける神戸―鳴門ルートと違い、地域を伝って渡る橋だ。だから地続きになるという「交通革新」で、地域資源を利用できる機会や、連携の基盤が与えられた。いかにプラスに生かすかが、カギとなる。

 そのためには、地域がしっかりとした目標や方針を持つ必要がある。経済、自然、人的文化的資源をバランスよく活用すると同時に自然環境へ目配りをしながら、拠点機能を高めなければならない。

 グリーンツーリズムなどの交流も、地域発展に欠かせない。農漁村の自然空間は、故郷を持たない大都市の青少年のニーズに十分こたえられるだろう。そこに「交流ビジネス」が生まれる。

 ただ現状は、みやげや飲み食いビジネスに終わっている。どう突破するかが課題だ。その担い手づくりや、交流ビジネスの知識や技術を習得する場がいる。活用テクニックの開発も求められる。農林漁業の生産や加工のプロセスの中から、新しいビジネスの掘り起こしも必要だ。一次、二次、三次産業を組み合わせた第六次産業の展開である。

 これからは成熟時代となる。国内だけでなく海外との交流が、全国の農漁村でも繰り広げられるだろう。自治体や地域間の競争も強まる。その地域ならではの生活、文化を見つめ直すことから、ものまねではない交流ビジネスが生まれて来るはずだ。



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