中国新聞社

'99.2.18   


 
海道ロマンへ しまなみリレーセッション いざなう島々



 瀬戸内しまなみ海道(本四連絡橋尾道―今治ルート)の開通まで七十日余り。三橋時代の地域ビジョンを考える「しまなみリレーセッション」の第三回が十日、「観光戦略」をテーマに、多々羅大橋で広島県と結ばれる愛媛県上浦町であった。地域の若手経営者や行政関係者など約五十人が参加。地域資源の発掘や広域連携など、十橋がいざなう海と島を舞台に観光のあり方を探った。 map
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 沿線周辺の観光客数 

 しまなみ海道周辺地域の観光客数はここ10年間、順調に伸びている。トップはコンスタントに年間200万人が訪れる尾道で、全体の3割近くを占める。次いで今治が120万前後を推移。観光施設オープンが相次ぐ瀬戸田は1997年に100万人を突破した。広島県イベント協会は、記念行事期間中の3月―10月に、前年の5割増の約600万人を見込む。
観光戦略リレーセッションの視察コースは次の通り。大山祇神社、大三島美術館、しまなみの駅・御島(以上愛媛県大三島町)、多々羅温泉、多々羅しまなみ公園、多々羅岬、村上三島記念館(以上愛媛県上浦町)。




はっしん海道物語

第3回 観光戦略 〜愛媛県上浦町

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夕映えの来島海峡に、三連つり橋がシルエットを描き出 す(愛媛県吉海町の亀老山山頂から)
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水軍など海の民の信仰を集めてきた大山祇神社拝殿前で説明を聞くリレーセッションの参加者(愛媛県大三島町)
官と民 イベントにも意識差

 五月一日からスタートし、百七十日間に及ぶ開通イベント。自主企画も含め、その総数は千件を超す。ただ、広島、愛媛両県の官主導であるため、地域住民との温度差も見受けられる。

 愛媛県伯方町で民宿を経営し、沿線の若手経営者などでつくるしまなみ交流連携倶楽部事務局を務める福羅健二さん(40)は「行政は、今年限りのしまなみイベントに目が向いている。しかも千を超すイベントを抱え、担当者は余裕がない」とチクリ。

 これに対し、広島県イベント協会地域イベント部長の森上孝司さん(51)は「しまなみ地域は世界的観光地になる資質を持っている。イベントで知名度を一気に高め、首都圏や関西圏からも観光客を呼び込み、しまなみの魅力を知ってもらおう」と呼び水効果に理解を求めた。

 自転車で渡れる、が売り文句のしまなみ海道。レンタサイクルでも官民の思いの違いが出た。JR尾道駅前で書店と貸し自転車経営をしている越智征士さん(54)は愛媛側自治体の行っている無料貸し出しに「官はいくらお客さんが増えても給料は一緒。民の方は自分の収入が増えるから必死だ。無料貸し出しは本当に続くのか」と首をかしげた。

 当事者の上浦町産業観光課長、高本寿士さん(54)は「しまなみ公園サイクルヤードの貸し自転車は有料の予定。橋を通って回収に行かないといけないので経費がかかる」と説明し、「もうけるつもりはないが」と付け加えた。

 一方、助言者の岡田さんは「役所がやる観光だから赤字が出てもよいというのは論理的におかしい。住民の税金を突っ込むのだから」と官の側の意識改革を求めた。

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新尾道大橋の橋上から望む尾道水道と市街地

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洋らんなど340種類の草花を展示する因島フラワーセンター(因島市重井町)

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一昨年春の開館以来、多くの観光客が訪れる平山郁夫美術館(広島県瀬戸田町)

次回は「ものづくり」(26日)開催・因島市
地域資源 文化や海 生かしたい

 観光橋の色彩が強いといわれるしまなみ海道。開通を、交流人口の増加、ひいてはファンづくりの呼び水にどうつなげるのか。地域の資源に光を当てる取り組みの報告が相次いだ。

 水軍の歴史文化にこだわった町おこしを報告したのは、愛媛県宮窪町観光協会会長の矢野久志さん(53)。「水軍レースを吉海、伯方を加えた三町で共催し、大分県玖珠町や広島県宮島町との交流も続けている。特産の大島石、日本一おいしい魚も加えた三本柱を中心に観光の町づくりを進めたい」ときっぱり。「九鬼水軍や塩飽水軍にも呼び掛け、全国の水軍サミットを瀬戸内海でやりたい」と続けた。

 愛媛県大西町史談会会長の近藤福太郎さん(87)も「三島村上水軍のうち、来島だけがあまり取り上げられていない」と残念がり、「来島を守る会をつくり、整備を今治市にも要望中。町おこしは歴史文化を大切にすべき」と力説した。

 温泉を活用した個性化戦略を語ったのは、今治市のホテル総支配人、寺内喜志郎さん(49)。同市湯ノ浦地区の観光施設七社が活性化協議会を結成し、「静かでクリーン、健康増進型という、道後とは違う温泉地帯を目指している」と報告した。

 尾道市で企画会社を経営する大崎義男さん(50)は「観光は異文化をみること」と定義付け。「先人から引き継いで未来へ伝えるものが欲しい。文化が経済を誘発するような都市をつくりたい」と街づくりに意欲を見せた。

 既に本州と陸続きになった広島側からは冷めた見方も出た。因島市土生町商店街連合会事務局の藤井紀男さん(58)は「因島大橋が開通した当時はフィーバーしたが、継続しなかった部分もある。イベントにばく大な労力と金がかかるが、効果はどれだけあったのか」と振り返った。

 橋が架かっても、海こそ最大の地域資源という発想も。因島市の土生商船専務の弓場丞(ゆば・たすく)さん(47)は「島らしさ考えるなら、海を大事にすべきだ。海がはぐくんだ島の地場産業の観光資源化も大切なのでは」と提起した。

 住民ぐるみで海辺の海藻調査をしている愛媛県弓削町役場情報班の村上律子さん(50)は「自分たちの地域を知ろうと、昨年七月から始めた。しまなみ海道ルートから外れてはいるが、海をどう生かしていけばいいか探っていきたい」と述べた。

 海道沿線で繰り広げられるイベントの数々。助言者の岡田さんは「毎年同じことを繰り返すフェスティバルと、一年ごとに地域づくりの効果を積み上げていくイベントを区別したい。今年より来年、来年より再来年を目指してもう一頑張りしようというイベントを」と注文した。

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約3000点に上る書画を所蔵する村上三島記念館(愛媛県上浦町)

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多々羅大橋を背に、国道317号を進む尾道サイクリングクラブのメンバー(愛媛県上浦町)

広域連携 情報共有し共同事業も

 知名度アップが大きな課題のしまなみ観光。全国にアピールするには、広島、愛媛県境を超えた連携が欠かせない。

 沿線周辺の二十市町村でつくる瀬戸内しまなみ海道周辺地域振興協議会。瀬戸内海の風景を共通のキャンパスにして、学び、体験する「しまなみ大学」を三月に開学させる。広島県地域振興課の成田修一さん(39)は「地域の資源を再発見しようという、しまなみ大学を重視している」と言い、新しい地域連携の取り組みを県も支援する方針だ。

 愛媛県上浦町で旅館を経営する鶴岡靖秀さん(44)は、さらに強固な組織づくりを提案した。「市町村の垣根を越え、しまなみ観光振興財団のようなものを設立しては。官民一体でハード、ソフト両面の整備事業にもっと取り組める」。福羅さんも呼応した。「尾道から今治まで人口三十二万のしまなみ市か芸予村という意識が欲しい」

 尾道市の会社役員沼尾伸一さん(39)は「しまなみ地域の連携、交流を演出する光の道'99を計画している。五月一日に住民、企業、官公庁がライトを付け、地域ぐるみで開通を祝おう」と呼び掛けた。

 東予市の国民休暇村支配人の田中幸彦さん(44)は情報面の連携に触れた。「情報提供がうまくいかないとルート全体が不親切とのイメージを抱かれる。愛媛、広島サイドの施設や自治体が観光情報を共有し、提供し合っていけるようになれば」

 しまなみ沿線の寺社を巡る「せとうち七福神霊場会」の開設を呼び掛けた因島市の大山神社宮司、巻幡俊さん(48)。一市三町の商工会などのバックアップを受けていることを披露し、「七福神は国際的な神様。アジア観光客誘致へのアピールができるのではないか」と、国際観光への発展をにらみ、夢を膨らませた。

 尾道市商工観光課課長補佐の柚木延敏さん(49)も「広域観光のニーズが強くなったことは事実。観光戦略面での連携強化が欠かせない」と述べた。

もてなし ふれあいの広がり期待

 沿線住民はどう観光客を迎え入れるか。交流新時代にふさわしい、もてなしの作法もテーマになった。

 愛媛県上浦町内で仲間と無人市を出店している船端冨貴子さん(61)は「おいしかった、とまた注文してくれるお客さんがいたり、親せき付き合いのように交流している人も。そんな輪がだんだん広がるといいな」と観光客とのふれあいの大切さを訴えた。

 愛媛県大島(宮窪町、吉海町)の島四国で、地域に脈打つもてなしの心を紹介したのは矢野さん。「善根宿があり、お接待の習慣が今も残っている。水軍レースの前夜祭でも漁師の人が捕ってきた魚を奥さん方が手づくりで接待して交流し、それを楽しみに来てもらっている。観光客を招き入れる上でも重要な観点だ」

 もてなしは情報面にも及んだ。越智さんは「テレビがいい風景を映して自転車で行けるよとたびたび流す。だが東京や大阪から来てみたらひどいもんじゃ、となったらいけん」と警告。「自転車では難しい坂はビデオに撮り、こうすればいいという助言をしたい。フェリーの活用も含め本当の情報を正直に提供することが大切」と強調した。

 広島市の食品会社社長、野間倬美さん(71)は、愛媛県吉海町出身で在広愛媛県人会副会長でもある。「サザエなどうまい魚介類がいっぱいある。ただ、その前にどこで捕れた魚か、など詳しく説明してあげれば、もっとおいしくなる」。食文化の紹介について古里へアドバイスした。

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島四国のお遍路さんをちらしずしでお接待する住民(愛媛県宮窪町余所国)


問題提起 ― 住民全体で町づくりを

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愛媛県内子町企画調整課長
岡田 文淑氏(59)

 住民と一緒に二十年余り、江戸、明治時代の古い町並み保存に取り組んできた。開発が最大の地域振興と考えられていた当時、ばかなことだ、と周りから思われた。

 木造劇場「内子座」を保存する時のアンケートでも、七〇パーセントが「残すより壊して駐車場にしよう」と答えた。駐車場になっていれば今、年間七万人の観光客が来るようになっただろうか。

 住民が主体で一九九四年、石畳地域にオープンさせた農家民宿も当初、「だれが泊まりに来るのか」と言われた。農家住宅を復元し農村景観の一つとして都市生活者に開放し、今では年間千人が泊まり、二千人が食事に来る。

 東京や大阪の人が求めるものは、地元の人とは違う。こうした地域資源に対する評価の違いを頭に入れて、食材は地元で採れる野菜以外使わなかった。これが魅力となり、口コミで全国へ波及した。

 戦後五十年、行政は与える一方で、住民は百パーセント受け取る側に立ってきた。いずれ行政も財政難で、過疎の山間地へのサポートが十分できない時代が来る。依存体質では今後、山の中で暮らしていけない。

 石畳地域の住民グループが自治大臣表彰を受けた時、住民の一人は「われわれはボランティアではない。子や孫に対する投資だから、汗をかくのは当たり前」と答えた。山の中でちゃんと自立して生きていく哲学を持っている。しまなみ地域に人を招き入れるためにも、地域づくりを観光資源づくりにつなげる仕組みが必要だ。



問題提起 ― 開通時の評判を大切に

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岡山商科大商学部国際観光学科教授
今井 成男氏(64)

 旅行のトレンドは、団体から個人へ、周遊型から滞在型へと変わってきた。日本の旅館の料金設定システムは一泊二食が基本だが、最近は寝食分離が言われ始めた。大手旅行代理店も分離型を検討しているほどである。

 旅行回数も年数回から、より頻繁に手ごろな所へ出かけるタイプへと移っている。動機も「未知なるものを求める」タイプから「仲間と楽しみながら」のウエートが高まるだろう。このような旅人の形態の変化をつかむ努力が、観光戦略の大前提である。

 観光戦略を組み立てる要素としては、自然や寺社など資源となる「ハードウエア」、祭やイベントといった「ソフトウエア」、もてなしの「ヒューマンウエア」の三つがある。ハードウエアを新しくつくることは、現状では多くを望めない。ソフトウエアによるイベント創出が大切になる。

 もてなしも重要だ。口コミで伝えられるのは、地元の人が親切か、不親切か、といった部分である。しまなみ開通時には、必ず人が来る。長続きさせるためには、最初の評判が大事。お客へのもてなしを怠ると、この後、じわじわと効いてくる。

 観光客のマーケット把握も不可欠。関東、近県の人なのか、中高年か、ヤングか。的確な判断による絞り込みが必要となる。すき間戦略を生かせるのが、観光の特徴でもある。資本力や商品力がなくても、十分チャンスを生かせることを認識してほしい。



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