中国新聞社

'99.3.6   


 
息づく技術 しまなみリレーセッション 守り育てよ

 瀬戸内しまなみ海道(本四連絡橋尾道―今治ルート)の五月一日 開通を、地域はどう受け止め、どう変わっていくのだろうか。沿線 地域の将来像を探る、しまなみリレーセッションは二月二十六日、 最終回である第四回目の討議を、瓦(かわら)産地の愛媛県菊間町 で行った。テーマは「ものづくり劇場」。製造業者やまちおこしグ ループ、行政関係者約五十人が、伝統の継承や「産業観光」などに ついて話し合った。


map







(1)本四公団第三建設局(橋りょう技術を紹介)
(2)尾道郷土館(商都尾道を紹介)
(3)万田発酵本社工場(植物発酵食品の製造工程などを公開)
(4)椋の里民俗資料館(和船づくりの道具などを展示)
(5)日立造船バイオ広島工場(杜仲茶の製造工程を公開)
(6)内海造船本社工場(進水式を公開)
(7)瀬戸田町歴史民俗資料館(製塩道具などを展示)
(8)伯方塩業大三島工場(来春操業、製塩工程を公開)
(9)ストーンギャラリー「石楽」(石製品を展示販売)
(10)石文化伝承館(大島石などを展示)
(11)今治造船今治工場など波止浜地区の4造船所(4−10月、進水式を公開)
(12)テクスポート今治(タオル織りを見学できる)
(13)日本食研ハム研究工場(製造工程を公開)
(14)伊予桜井漆器会館(製造工程を見学できる)
(15)今治地域地場産業振興センター(地場産品を展示)
(16)八木酒造部(酒蔵を公開)
(17)菊間町かわら館(瓦づくりを体験できる)




はっしん海道物語

第4回 ものづくり劇場 〜愛媛県菊間町

ものづくり劇場リレーっセッションの視察コースは次の通り。
Aコース 日本食研ハム研究工場、タオル工場「藤高」(以上今治市)、愛媛県菊間町かわら館
Bコース 鬼瓦制作現場(菊間町)、菊間町かわら館


photo
瓦づくりを体験できる施設もある、かわら館。参加者たちは瓦の土に触れ、その歴史に思いをはせる(菊間町)
伝統を生かす 需要喚起へ工夫を

 しまなみ地域には、古くからの伝統産業が今も息づく。七百年の歴史を重ねた愛媛県菊間町の瓦もその一つ。同町かわら館が参加者の視察コースになったこともあり、セッションは瓦談義からスタートした。

 伝統産業の前に立ちはだかるのは需要の先細り。「時代は和風から洋風建築へ。洋風の家に菊間瓦は合わない」と菊間町窯業協同組合青年部長の越智浩一さん(38)。副理事長の水田義紀さん(46)も「土壁、瓦屋根の家なら夏涼しく冬暖かい。だが最近の人は暑くなればクーラー、寒くなれば暖房を入れる」とため息を漏らした。

 「斜陽を嘆いても、どの産業も事情は一緒」。東京から故郷の今治市にUターンした元新聞記者、白石通弘さん(61)はずばり指摘した。その上で「いずれは日本の気候風土に合う和風住宅が見直されるはず。それまで生き延びる工夫をすべき」とエールを送った。

 三大産地である淡路、三州、石州に比べ、菊間は小さな産地。同組合青年部副部長の吉井治広さん(34)は「最近では瓦の土を使って、花立てとか灰皿とか、家の外でなく、家の内側のものを作っている」と多角化戦略を語った。鬼瓦をつくる「鬼師」の渡部一馬さん(43)は「昔は良いものを高く売った。これからは良い鬼瓦をいかに安くつくり、技術を残していくか」と課題に言及した。

 一九九七年七月、かわら館がオープンした。二月十日には入館者三万人を突破。瓦づくりが体験できるため、年間一万二千人の当初予想よりもハイペースだ。越智さんは予想外の反響も報告した。「消費者からクレームが寄せられるようになった。それも二、三十年前に建てた家の瓦で」

 これに対し、助言者の鈴木さんは「クレームを前向きにとらえることが重要。かわら館は消費者との交流の場にもなりうる」と強調。「瀬戸内の景観に調和する瓦屋根の再生のために、行政の助成があってもよい」と続けた。でべらせんべいを作る尾道市の桃谷佳恵子さん(65)も「菊間瓦いは歴史の重みがある。案外、自分たちの宝を知らないのではないか」と外からの気付きを述べた。

 船づくりの技も、海を生かした古くからの「ものづくり」。広島県瀬戸田町で和船をつくる長光泰司さん(67)は「船大工の需要は確かにだんだんなくなっている。それでも最近は、伝統工芸展をするから技術を持った者は集まれ、といったケースが増えている」と伝統産業の見直しが進むことを報告した。

photo
かわら館で鬼師から説明を受けるリレーセッション参加者(菊間町)
産業観光 見学・体験・・・感動売る

 足元の地場産業を、観光客に見せることで再評価しようという動きが「産業観光」である。それを狙ったファッションタウン構想を進めているのが今治市。商工労政課長補佐、桧垣達哉さん(45)は「桜井漆器は十年前から加工工程を公開している。造船所も進水式をオープンにし始めた。日本食研、八木酒造部も新工場で観光客を受け入れている」と報告した。

 その八木酒造部取締役営業部長、阿部清行さん(54)は「一般の人は日本酒の酒蔵を見る機会がない。酒蔵を観光ルートに入れてもらえば、消費者の考え方も分かる。販売増にもつながるし、情報源としても役に立つ」と効用を語った。

 愛媛県伯方島の伯方塩業も隣の島にある大三島町に見学コース付きの新工場を来春、オープンさせる。伯方工場次長の武田清隆さん(48)は「塩田の自然塩を残してほしい、という消費者運動から会社はスタートした。自然塩づくりは非常に手間がかかることを理解してもらうことが狙い」と消費者との連携の重要性を力説した。

 菊間町のかわら館も産業観光の要素を持つ施設。広島県立食品工業技術センター主任研究員の山岡至さん(57)は「瓦づくりの体験コースがよい。ものを売るより感動を売ることが大切だ。学習という意味もある」と評価。鬼師の渡部さんは「瓦の土の感触を覚えてもらうため、子供たちに粘土細工を教えている。お客さんが二度三度とかわら館に来てくれるようなことがもっとできたら」と呼応した。

 一方、しまなみ沿線は橋の博覧会会場という色彩もある。本四公団から国土開発技術研究センター(東京)に出向中の武山哲郎さん(45)は「尾道市の本四公団第三建設局一階や今治市の糸山公園展示室で架橋技術を見せている」と観光面での効果に期待した。

 産業観光には課題も少なくない。今治市のファッションタウン構想の軸の一つであるタオル。桧垣さんは「今治のタオルを観光産業に持っていくのは難しい。デザインや販売は東京や大阪の問屋任せ。ショールームもまだ問屋向けだ」と打ち明けた。いまばりデザイナーズクラブ会員でもある大沢英二さん(57)も実情を認めた上で、「オーガニックコットン(有機栽培綿)のタオルとか、素材にもこだわった本物のタオルをつくっていきたい」と将来をにらんだ。

photo
今年1月に工場見学をスタートさせた日本食研のハム研究工場。参加者たちはソーセージ試作品の腸詰め工程に見入った(今治市)
商品開発 歴史や味にこだわり

 ものづくりの基本は「商品開発」である。「ミカンもち」、本因坊秀策にちなんだ「囲碁もち」を生み出した因島物産協会副会長、柏原伸一さん(57)は、地元発祥のハッサクを入れたもちも開発した。「基本の技術にこだわって、自信を持ってつくった『もの』には常連客がつく。リピーターの始まりだ」と強調。ただ「そんな事業をする人がもっと多く出てほしい」と起業家の出現を期待する。

 八木酒造部は、ラベルにしまなみの橋をあしらった日本酒を売り出した。「中元、歳暮に贈ってもらえば、一つの地域自慢になる」と阿部さん。「小さなメーカーが生き残るためには、よそにない商品を作り続けるしかない」と口元を引き締めた。

 塩づくりが盛んだった瀬戸内。昨年十月から塩ラーメンを売り出した愛媛県伯方町の福羅健二さん(41)は「しまなみの味のイメージを考えた。塩田で生まれ育った自らの生き方と重ね合わせ、商品開発をした」と塩の歴史へ思いを込めた。

 愛媛県吉海町生まれで広島市の食品会社社長、野間倬美さん(71)は、瀬戸内の海の幸に目を向ける。「地元で採れるワカメやヒジキを入れた来島渦巻というすしを開発した。多くの人に賞味してほしい」と意気込む。

 これからのものづくりには、資源リサイクル、ごみの減量化への取り組みも求められる。愛媛県土居町のコンクリート会社社長、森高準一さん(39)は「環境に負荷をかけない素材にこだわり、ものづくりに取り組みたい。そのために異業種交流も進めたい」と決意を込めた。



問題提起 ― 産地内での競争必要

PHOTO

梅錦山川(愛媛県川之江市)社長
山川 浩一郎氏(58)

 土産物と特産品を区別して考えたい。土産物の中には、特産品として産地形成ができていないところがある。特産品の原料は地域のものにこだわった方が本物でかっこいい。満足感もある。だが、問題になるのは商品供給能力。幻をつくってはいけない。地域にこだわると、いざ売れた時に品不足問題に直面する。

 地域へのこだわりの対極にあるのが福岡の特産品メンタイコ。福岡は原料のタラコ産地ではないが、いつの間にか「メンタイコは福岡」となった。イメージだけで商品をつくるお手本だと思う。タラコという、毎日のように食べている物の隣の商品を開発すれば当たる、という点も参考になる。

 産地形成は、始めから意識的に行わないと孤軍奮闘になる恐れがある。地域内での競争が必要であり、業者数が多くないと外部から認知されない。産地・産品をつくり上げようという意識のある仕掛け人がリーダーシップを取り、情報をコントロールしていかないと、物事はなかなか動かない。

 以前は、景気が良くなれば消費も元に戻るという意識があった。最近では、景気が良くなっても消費はなかなか元には戻らないとの考え方も出ている。ただ、ものづくりの中でも、食品関係は有望だろう。景気の影響はあるにしても、二年連続でエンゲル係数は上がっている。不安の多い社会でもあり、これから先、商品を開発する際のキーワードは「安全から安心へ」となるだろう。

問題提起 ― 地場産業で地域振興

PHOTO

松山大経済学部教授
鈴木 茂氏(50)

 地域振興の観点からものづくりを考えた場合、地場産業を中心にすえる必要性を感じる。地場だから技術力が低い、と思うのは間違い。愛媛県内でも、つくっているものは古くても、製造工程や受発注システムは古くない。ハイテク技術の成果を取り込み、技術革新を続けており、技術力よりも経営管理のノウハウがポイントとなっている。

 地場産業の本社機能も見逃せない。開発や販売なども手掛ければ絶えずユーザーの情報が入ってくる。販売チャンネルは情報ネットワークだ。企業城下町と違い、経営管理ノウハウが高まるうえ、起業家精神がおう盛な人材が育つ。

 しまなみ地域産業の背景にある瀬戸内海の意味は大きい。世界でも有数な漁場は多種の漁業生産物をもたらし、今日の食品加工業につながった。水軍の造船・操船技術は、この地域を、国内はもちろん世界市場と交流させた。収集、蓄積された情報は、比較的早い産業資本の発達を促した。

 成熟段階に入った日本のものづくり再生には、「何をどう作るのか」というアイデアが重要。消費者の欲求を把握するための双方向の情報ネットワークや、より質の高さを求めるようになる生活の芸術化もかぎ。夜間大学院のように、ものづくりの現場の人が働きながら、より高い技術を学べるシステムの普及も大切だ。そうすれば、日本のものづくりは、機械化技術によって、中国や東南アジアの労働力に対する競争力を回復できる。




 4回のリレーセッションを踏まえて、’99しまなみシンポジウム「はっしん海道物語―交・楽・学へのいざない」が21日午前10時半から、広島県瀬戸田町のベル・カントホールで開かれる。瀬戸内しまなみ海道周辺地域振興協議会、愛媛新聞社、中国新聞社が主催、広島県しまなみ海道’99イベント協会共催。日本美術院理事長の平山郁夫氏が特別講演、同志社大教授の森浩一氏が基調講演する。その後、森氏、九州大教授の柳哲雄氏、広島大教授の戸田常一氏、広島大非常勤講師の袁葉氏がパネルディスカッションする。コーディネーターは都市環境デザイナーの花輪恒氏が務める。入場には聴講券が必要。


MenuBack