中国新聞社

'99.4.27
遊びとアートがいっぱい     
 岩城島 

「楽しければ人も訪れる」

 広島との県境に浮かぶ愛媛県越智郡岩城島。積善山の山頂近くの木立が切れた部分から、白と赤に彩られたパラグライダーがふわりと飛び出した。谷筋の風をとらえ、上り下りやターンを繰り返しながら約二百メートル下の着陸場へゆっくりと下りる。

 「自然の力だけで飛べるなんて」。見上げていた尾道市向東町のアーティスト秦紀子さん(22)は、無事着地した宙(おおぞら)散歩研究会代表の村上政隆さん(46)へかけ寄った。

360度広がる海

map  瀬戸内しまなみ海道(本四連絡橋尾道―今治ルート)から外れ、今後も離島であり続ける岩城村。秦さんは、そんな場所でパラグライダーや芸術交流を楽しむ村民たちを訪れた。

 「村内でもまだ空を飛んだやつはおらん、そう思って」。高知県吾川村のパラグライダースクールに通った村上さんたち五人。やがて地元を飛ぶ夢が生まれ、一九九二年、研究会を結成した。

 活動は離陸場と着陸場の整備から始まった。メンバーの村商工会職員水木要さん(41)は「休日に木を切ったり草を刈ったり大変だった。でも飛べたら最高だよ」。計五千平方メートルの施設が完成したのは二年後だ。

 散りゆく三千本の桜。標高二百八十メートルの離陸場には、笠岡市の愛好家たちもキャノピー(機体)を広げていた。「島がたくさん見える」と秦さん。飛べば三百六十度が海。しまなみ沿線でただ一つの施設だ。四月中旬の大会には東京、名古屋からも参加した。

 「遊んでいたら人が集まってきた。開通後はこの近くを通る人が増える。その時飛んでいる自分たちを見て、何だろうと立ち寄ってもらえたらいい」。鳥を見て風の流れを読む村上さん。遊びを堪能しているようだ。

 「島で暮らす人がまず楽しむ。その力がよその人を引き寄せるんですね」。秦さんは海に目を移した。

島ごとに個性

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パラグライダーの離陸場で周囲の景色を説明する村上さん(左)と秦さん
 次に訪れたのは、岩城港近くにある画家阿部純子さん(49)のギャラリー。「ちょうどお客が来てるの」。ピンクの髪をポニーテールにまとめた阿部さんは隣の因島市出身だ。

 明るい色彩の油絵、手づくりのアクセサリーが並ぶギャラリー。先に訪れていた女性のアーティスト(21)が伯方島出身と聞いて驚いた。偶然にも共通の友人がいたからだ。

 秦さんは海で拾ったガラスで作ったオブジェやオーブン粘土でかたどった人形の勇気彦(イサムキーヒコ)君など、販売している自作の写真を見せた。「センスよくできてる。どうやって作ったの」。話が弾む。

 「岩城が私を呼んだのよ」。島っ子と称し、都会から帰ってきた阿部さん。島ごとに個性があるから面白いという。アートを愛する人たちがギャラリーに船でやってくる。頼山陽たち文人墨客が立ち寄った、かつての岩城島を思わせるような場所になりつつある。

 「この島で、見る人がほっとするような絵、感性を追い続けるの」と阿部さん。秦さんも「そういえば、古里の海を見るとほっとできますよね。心が自由になるような…」。遠くから古里へ帰った時の気分を振り返り、そう実感できた。

「夢を描ける」

 しまなみ開通で離島は既設の船便が減り、島民にとって不便になる―。やはり島に住み、尾道まで渡船を利用している秦さんは心配していた。しかし村上さんたちは悲観せず、どっしり構えて開通を待っている。岩城の旅で、夢を描ける島のよさ、島人のたくましさを見た。「今度は島をテーマに作品を作り、パワーをくれた皆さんに見てもらおう」。尾道へ帰る高速艇で、秦さんは決めた。

 <宙散歩研究会
会員十二人。積善山の整備や村外の愛好家を招いての大会開催など、活動の幅を広げている。

 <阿部純子さん
画家。服飾デザイナーとして東京、札幌で働いた後、島へ。因島市、岩城村、伯方町などで子どもたちと壁画を製作している。


しまなみ新景

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