中国新聞社

'99.4.29
地域支える女性パワー     
 弓削島 

家事の傍ら民俗誌執筆

 瀬戸内しまなみ海道(本四連絡橋尾道―今治ルート)は徒歩や自転車で通行できるのが特色だ。何回も海道周辺を走った尾道サイクリングクラブの会員桑原教子さん(51)=尾道市長江二丁目=だが、橋の架からない弓削島には行ったことがなかった。香本昌義事務局長の「今回作ったマップにも入っとらん。しっかり見てきてくれ」との言葉に送り出され、行動力で定評のある、ゆげ女性塾を訪れた。

 愛媛県越智郡弓削町の作業所。「何でも知りたい一心ですぐ出掛けるの」。町職員村上律子さん(50)が、三十―五十代の女性たち八人とともに自己紹介をした。普段の活動は生ごみをたい肥に変えるボカシ、廃油せっけん、段ボールアート作り。主婦の立場から、町の生活環境改善に取り組んでいる。

 注目を集めたのは、全員が調査、執筆を分担して昨年出版した弓削民俗誌(A4判、一九八ページ)。普通の主婦が郷土のフィールドワークに取り組んだ珍しい本だけに、全国の大学などから問い合わせが相次いでいる。

 「日常の仕事をこなしながらでしょ。よくやれたわねえ」。桑原さんの問いに「最初の五分を除いて二時間延々とオリンピックに出たかったいう話を聞かされたり。しつこく聞くもんでお年寄りも私たちも疲れて」と苦労話は尽きない。「でもドラマがたくさんあったんよ」

暮らし再発見

map  普段聞きたがらない昔の話を熱心に聞いてくれる、そんなお年寄りの喜びが伝わってきた。「島でも人間関係が希薄になってて。あの山道を肥料かついで越えた時代がすぐ前にあったんだ、とあらためて気付かされた」。農業を継いだ吉田幸子さん(50)は、知っていたはずの古里の暮らしを再発見した。

 家庭問題に一人悩んでいたメンバーもいた。しかし自分が抜けたら本が完成しない。家出まで考えながら仲間と話すうち、島に踏みとどまることができた。「今は笑い話ですけど、危機を乗り越えられたのはこの本のおかげなんです」

 桑原さんが自転車体験談を始めた。「私は運動嫌いでね。手術後に勧められて始めたの。肥満防止よ」。シェイプアップの本を見せ車種から説明する。「やせられるの?」。女性塾メンバーの目が輝きだした。

 「弓削はいいコースになるよ。西側に出れば多島美だし、燧灘方面は行ったことのないエーゲ海もかくや・・・」。田房早苗さん(50)が身を乗り出す。訪れた日はあいにくの雨だったため、桑原さんを車に乗せ島内一周に出発した。

 「こっちは遠回りだけど景色がいい」「これくらいの坂なら大丈夫」。弓削島を回り、橋を渡って佐島へ。メンバーは「次はクラブの人とぜひ来て下さい」「それまでママチャリ軍団で下見しとかなきゃ」。

 橋こそないが「船で渡って自転車で一回りっていうのも魅力よね」と桑原さん。女性塾のメンバーたちは「コースを選べばこの島も走ってもらえるかも」と乗り気になった。

尾道は生活圏

PHOT
ゆげ女性塾のメンバーにサイクリングの魅力を話す桑原さん(右端)
 フィールドワークとツーリング。桑原さんは「ものは違うけど自分の足でここまで来た、という達成感は同じね。それに好奇心があるところも」と島の訪問を振り返る。半面、「特産ノリの市もある尾道は生活圏」との言葉に対し、どれだけ広島側が弓削に関心を持ってきたか、とも考えた。

 「なんだか昔から友達だったみたい」。クラブ員の目と耳で確かめて作ったサイクリング用のしまなみガイドマップ。桑原さんは、同じような苦労の末に作られた弓削民俗誌と交換することにした。

 <ゆげ女性塾
一九九三年、愛媛県の助成を受け、町を支える女性育成を目指して設立。ごみ問題などに取り組むほか、町ゆかりの作曲家本居長世の顕彰、文学博士金田一春彦氏との交流など幅広い文化活動を展開している。会員十八人。


しまなみ新景

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