中国新聞
2001/6/25
 豊田大谷 3−2 宇部商      (10)
=1998年夏2回戦
 ▽2回戦
宇部商
  000011000000000−2
  000001001000001−3
豊田大谷

  (延長十五回)
【宇部商】打安点
H 上 田630
E 平 田600
A 上 本521
B 梶 矢620
C 島 村520
D 河 村610
F 清 水511
G 北 隅610
@ 藤 田400
   計 49122

【豊田大谷】打安点
E 大 井510
G 山 瀬520
D 古 木511
A 前 田720
B 川 上600
H 小 谷610
F 持 田610
@ 上 田630
C 山 本400
   計 50111

宇410533170
 振球犠盗失残併
豊66442150

▽二塁打 島村、
上田(宇)、前田
▽ボーク 藤田

サイン盗警戒が伏線

 延長十五回、3時間52分の死闘はあまりに突発的で、悲劇的な幕切れだった。場面は無死満塁。宇部商のエース藤田は痛恨のボークを宣告され、サヨナラ負けを喫した。

 2年生の藤田は、序盤から縦に割れるカーブを武器に、強力打線に挑んだ。「気持ちだけは負けないように」。童顔の口元をきりっと結び、172センチ、62キロの体全体に闘志をみなぎらせた。

 五回に清水の右前打で先制。六回も敵失に乗じ1点を加えた。玉国監督も「完全にうちのペース」と得意顔だった。

 1点リードの九回裏。30度を超す炎天下で、勝利は陽炎(かげろう)のように揺らいだ。失策絡みで二死一、三塁。豊田大谷(東愛知)の後藤監督が「一か八か」で仕掛けた重盗で追いつかれた。

  試合後、豊田大谷の先発上田(左)から声を掛けられる宇部商の藤田  

 藤田は、大会前からの左ひじ痛に耐えながら気迫の投球を続けた。「延長十八回の再試合決定まで投げ切ってやる」。大会屈指の強打者、古木(現横浜)を十二回に三振、十四回も中飛に打ち取った。

 運命の十五回裏。中前打や二ゴロ失などで、無死満塁のピンチに立たされた。藤田は冷静沈着だった。カウント2−1。球数は210球となった。セットポジションに入る途中、捕手の上本が外角直球のサインを内角球に突然変えた。「何で?」。藤田は、胸元に上げかけた両腕を下ろした。

 その瞬間、林球審が本塁ベース前に歩み出て、大きく両腕を振った。藤田は「何が起こったのか」。三塁走者でさえ、驚いた表情で本塁に向かって小走り。正面から見た上本だけが「明らかにボークだ」と直感した。

 突然のサイン変更は、伏線がある。上本は八回ごろから、二塁走者がサインを盗んでいることに気付いた。「事前に、急な変更があることを知らせておくべきだった」と悔やんだ。この年の秋、プロ野球で「サイン盗」が問題となり、現在はアマ球界でも禁止されている。

 中学時代から投手一筋の藤田が、初めて宣告されたボーク。試合後も納得のいかない表情で、「満足感はない。悔しいだけです」と言い残した。

 あれから3年。福岡大で活躍する藤田は、大人になっていた。「あの場面、判定を下す球審も勇気がいったでしょう。それが分かった時から、いい思い出になりました」と、さわやかに笑った。

(おわり)


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