中国新聞
2002/03/27
母の「優しさ」 超えた危機感
  役 割 (1)
 
息子の後追い 怒り爆発

 暴走の連鎖を断ち切る環境づくりは、動き始めた。広島市の暴走族追放条例制定を受け、警察は一層の取り締まり姿勢を示す。更生をバックアップする市民の動きも目立ってきた。だからこそ、身近な家庭にある「病巣」にあらためて目を向けたい。暴走族の子を持つ親たちの葛藤(かっとう)を報告する=文中は仮名。

(暴走族取材班)

 一昨年の秋、中学二年だった長男ケンジの二階の部屋で、四十歳代の母は汚れたスニーカーを見つけた。窓から夜ごと抜け出ている―。問い詰められたケンジはやっと明かした。「暴走族に入った」。それが理由だった。

 「なぜ」。母は自問するのがやっとだった。外出を止めさせようとなだめたが、ケンジは反発するだけだった。

 母は寝室で眠らなくなった。「お帰り」を言うため、居間で仮眠した。夜は静まり返る広島市近郊の住宅街。ドアを開ける音を聞き漏らすまいと、風の音にも目を覚ました。

 自営業の夫は、仕事と老いた実母の世話で週の大半は家を空けていた。「子をしかるのは父親、温かく見守るのが母の役割」。そう自分を納得させ、一人で「ただいま」を待った。

 「体を張って止めよう」。何度かは覚悟を決め、外に出ようとするケンジの手をつかんだ。だが「行かんと殴られる」と叫ぶ息子の言葉に母はぐらついた。「殴られて死んでしまうかも…」。結局、手を離した。

 「かっこええ先輩がおる。絶対に暴走族はやめん」。そう言い張ったケンジは間もなく、バイク盗や万引きで補導された。警察からの帰りに打ち明けた。「(盗みを)やらんと殴られる。疲れた」。母には離脱の兆しに見えた。

 三年生になったケンジは休みがちだった学校に戻り、クラブ活動を再開した。警察には「脱会」を届けた。が、鑑別所から以前の仲間たちが出てくると、再び付き合いを始めた。母は夫が帰宅した夜は、外出したケンジを二人で追い、連れ帰った。

 ケンジをしかりつけ、手を上げる夫。母は傍らで「優しさ」を示すことに専念した。だが、ケンジは深夜の外出をやめようとしなかった。別の窃盗事件への関与で、警察の調べも受けた。母は二歳上の長女に気が回らなくなっていた。「家庭崩壊」の文字が頭をよぎった。

 冬の夜、外出したケンジを母は思い切って一人で追った。コンビニエンスストアの駐車場で仲間とたむろしていた息子に、怒りを爆発させた。「親をばかにするな」。見上げるほど身長が伸びたケンジを殴ろうとしたが、手は届かなかった。

 取り巻いた仲間の少年たちに構わず、涙を流した。気が付くとケンジの足をけっていた。「父の役割」と思っていた本気の怒りを、初めて見せた。この夜以降、ケンジはあきらめかけていた高校受験を目指すようになった。

 ケンジは今も、かつての仲間に引き込まれかねない危うさを引きずる。母は以前にも増して、感情をぶつけるようになった。わが子を守るため、母は自分に課した「役割」の殻を破ろうとしている。

暴走族に関する情報、ご意見をお寄せください。
  ■ファクス 082(236)2321   ■電子メール shakai1@chugoku-np.co.jp


Menu Next