2002/03/29
未明のコンビニエンスストアの駐車場に軽トラックを止め、辺りを見回す。長男カズキ(16)の姿はここにもなかった。「もう何軒回ったか…」。父(34)の肩に疲労がのしかかる。数時間後には、魚の仕入れに市場へ行かなければならない。 カズキが暴走族に入って一年半、広島市の近郊で鮮魚店と小料理店を営む父と母(33)は、眠れない夜を過ごした。 疲れは夫婦のけんかを誘った。「おまえのしつけが悪い」「あなたが怒鳴るから…」。もう放っておこう、と何度も思ったができなかった。「幼いカズキに、かまって来なかった」。そんな負い目があったからだ。 五年前、父は重機の運転士を辞め、鮮魚店での自立を志した。軌道に乗せるため、早朝から深夜まで夫婦で働いた。休みは年に十日がやっとだった。 当時、カズキは地元のソフトボールチームのレギュラーメンバーだった。しかし、試合の応援はおろか、キャッチボールの相手もしてやれなかった。 中学に入ったカズキは、店に近い自宅から、夜抜け出るようになった。学校でも暴れた。そして暴走族入り…。戸惑いの中、父はその理由が孤独にあると直感した。「ここで助けてやらないと、親の愛を知らないまま育ってしまう」 父はカズキを探して、仲間たちの家を訪ね回ることから始めた。相手の親の多くは、少年たちが集まっていることを隠そうとした。「わが子を恐れ、わざと放っているのか…」。自らにも思い当たる「見過ごしの罪」の深さを実感した。 昨年の九月、カズキはバイク盗などの疑いで逮捕されたのを機に、暴走族をやめる決意をした。父はリーダー格の少年に電話を入れた。「親がやめさす言うんじゃけえ、えかろうが」。すご味を利かせたつもりだった。 仲間たちはリンチを加えずに、カズキの離脱を認めた。「やかましい親」を演じ続けた成果と思えた。 カズキは調理師見習として、ホテルの飲食店で働き始めた。しかし、かつての罪が明るみに出て、再び逮捕された。父と母は家庭裁判所の調査官や弁護士と話し、家族の歩みの中で「足りなかったもの」を探った。 「働きづめの親の背中だけでは語り尽くせないことがある。その一方、休日の旅行がきずなを深めるわけでもない。一緒にふろに入り、朝晩あいさつを交わす。そんな営みが親子をつなぐんですね」。悔恨にさいなまれ、カズキを追い回した父が得た一つの答えだ。 再び職場に迎えられたカズキは、夜遅く父母の店に立ち寄り、手作りの夕食をとる。「仕事はうまくいってるか」「まあね」。そんな短い会話から、親子の失われた日々を埋めようとしている。
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